零点のソースを表示

{{otheruses|複素解析函数の複素零点|（代数）多様体|零点集合|l2=零点集合|初等的扱い|関数の零点}}
{{出典の明記|date=2016年3月}}
[[複素解析]]における[[正則函数]] {{mvar|f}} の'''[[関数の零点|零点]]'''（れいてん、ぜろてん、{{lang-en-short|zero}}）は函数が非自明でない限り[[孤立点|孤立]]する。零点が孤立することは、[[一致の定理]]あるいは[[解析接続]]の一意性の成立において重要である。

孤立零点には[[重複度]] (order of multiplicity) が定まる。[[代数学]]における類似の概念として非零[[多項式の根]]の重複度（あるいは[[重根 (多項式)|重根]]）が定義されるが、多項式函数はその不定元を複素変数と見れば[[整函数]]を定めるから、これはその一般化である。

== 零点が孤立すること ==
以下、{{mvar|U}} は[[ガウス平面]] {{math|{{unicode|ℂ}}}} の[[開集合]]、{{math|''f'': ''U'' → {{unicode|ℂ}}}} は[[正則函数|正則]]で、{{mvar|U}} の元 {{mvar|a}} は {{mvar|f}} の[[函数の零点|零点]] ({{math|1=''f''(''a'') = 0}}) とする。このとき函数 {{mvar|f}} は、適当な半径 {{mvar|r}} の開円板 {{math|''D''(''a''; ''r'') &sub; ''U''}} において、[[テイラー級数|整級数]]
: <math>f(z) = \sum_{k=1}^{\infty} \alpha_k(z - a)^k\quad(\forall z \in D(a;r))</math>
に展開することができる。ここで定数項は {{math|1=''α''{{ind|0}} = ''f''(''a'') = 0}} だから、添字は {{math|1}} から始まっていることに注意。また各項の係数は {{math|1=''α{{ind|k}}'' = {{fraction|''f''{{msup|(''k'')}}(''a'')|''k''!}}}} で与えられる。

; 定義 ({{vanc|孤立零点}}): 複素函数 {{mvar|f}} の零点 {{mvar|a}} が'''孤立'''するとは、それが {{mvar|f}} の零点集合の[[孤立点]]となる（すなわち、{{mvar|a}} を中心とする十分小さな円板をとれば、その中に含まれる {{mvar|f}} の零点が {{mvar|a}} のみであるようにすることができる）ときに言う。

上記の級数展開において、以下の二者択一が考えられる:
{{ordered list
|1= 任意の整数 {{math|''k'' > 0}} に対して {{math|1=''α{{ind|k}}'' = 0}}、すなわち {{mvar|f}} は {{math|''D''(''a''; ''r'')}} 上恒等的に消えている。この場合、零点 {{mvar|a}} は孤立しない。
|2= さもなくば、零でない係数を持つ最小の項の添字、すなわち {{math|''α{{ind|n}}'' &ne; 0}} かつ {{math|1=''α{{ind|k}}'' = 0 (''k'' < ''n'')}} を満たす {{math|''n'' > 1}} が存在して、上記の級数を
: <math>f(z) = \sum_{k=n}^{\infty} \alpha_k (z - a)^k = (z - a)^n g(z),
 \quad (g(z) = \sum_{\ell=0}^{\infty} \alpha_{\ell + n}(z - a)^\ell)</math>
の形に書くことができる。ここに、函数 {{mvar|g}} は {{math|1=''g''(''a'') = ''α{{ind|n}}'' &ne; 0}} を満たす[[解析函数]]となる。{{mvar|g}} の {{mvar|a}} における[[連続写像|連続性]]により、適当な実数 {{mvar|r}} ({{math|0 < ''r''{{ind|1}} < ''r''}}) が存在して、開円板 {{math|''D''(''a''; ''r''{{ind|1}})}} 上で {{mvar|g}} が消えないようにすることができるから、まとめると
: <math>f(z)=(z-a)^n g(z),\quad g(z)\ne 0\quad (\forall z\in D(a;r_1))</math>
となり、{{mvar|f}} は {{math|''D''(''a''; ''r''{{ind|1}})}} 上 {{mvar|a}} のみで消える。すなわち、{{mvar|a}} は孤立零点である。
}}
以上のことを、以下の定義および定理にまとめることができる。

; 定義 ({{vanc|零点の重複度}})
: 正則函数 {{mvar|f}} の孤立零点 {{mvar|a}} の'''{{vanc|重複度}}'''が {{mvar|n}} であるとは、自然数 {{mvar|n}} が、任意の自然数 {{math|''k'' < ''n''}} に対して {{math|1=''f''{{msup|(''k'')}}(''a'') = 0}} かつ {{math|''f''{{msup|(''n'')}}(''a'') &ne; 0}} を満たすときに言う。このとき {{mvar|a}} は''' {{mvar|n}}-位の零点'''{{sfn|高木|1983|p=219}}であるという。また、{{math|1=''n'' = 1}} のときは {{mvar|a}} を単純零点 (simple zero) とも呼ぶ。
: {{mvar|a}} が {{mvar|f}} の {{mvar|n}}-位の孤立零点であるための必要十分条件は、{{math|U}} に含まれる適当な開円板 {{math|''D''(''a''; ''r'')}} 上で定義された正則函数 {{mvar|g}} が存在して、{{math|1=''f''(''z'') = (''z'' &minus; ''a''){{exp|''n''}}''g''(''z'') (∀''z'' &isin; ''D''(''a''; ''r''))}} かつ {{math|''g''(''a'') &ne; 0}} が満たされることである。
; 定理 ({{vanc|孤立零点の原理}}): {{mvar|f}} の零点 {{mvar|a}} が孤立しないならば、{{mvar|U}} に属する適当な円板 {{math|''D''(''a''; ''r'')}} 上で {{mvar|f}} は恒等的に消えている。

== 例 ==
{{mvar|a}} を複素数とし、複素函数 {{mvar|f}} を
: <math>f\colon \mathbb{C}\to\mathbb{C};\; z\mapsto\exp(z)-\exp(a)-(z-a)\exp(a)</math>
と定めれば、これは[[整函数]]（つまり {{math|{{unicode|ℂ}}}} の全域で正則）で、{{math|2}}-位の孤立零点である。実際、{{math|1=''f''(''a'') = ''f{{'}}''(''a'') = 0}} だが {{math|''f"''(''a'') &ne; 0}} となることは容易に確かめられる。

== 応用 ==
孤立零点の原理から、以下のような原理が導かれる。

=== 解析的延長の原理 ===
{{main|一致の定理|解析接続}}
以下、{{mvar|U}} は {{math|{{unicode|ℂ}}}} の[[領域 (解析学)|領域]]（[[連結空間|連結]]開集合）とし、{{math|''f''{{ind|1}}, ''f''{{ind|2}}}} は {{mvar|U}} 上で定義された正則函数とする。

; 定理 (一致の定理): 等化集合 {{math|{{mset|''z'' &isin; ''U'' |2= ''f''{{ind|1}}(''z'') = ''f''{{ind|2}}(''z'')}}}} が少なくと一つの[[集積点]]（非孤立点）を持つならば。{{mvar|U}} 上恒等的に {{math|1=''f''{{ind|1}} = ''f''{{ind|2}}}} が成り立つ。
; 定理 (一致の定理): 点 {{math|''a'' &isin; ''U''}} および {{mvar|a}} と異なる点からなる {{mvar|U}} 内の点列 {{math|(''z{{ind|n}}'')}} で {{mvar|a}} に収束するものが存在して、任意の {{mvar|n}} に対して {{math|1=''f''{{ind|1}}(''z{{ind|n}}'') = ''f''{{ind|2}}(''z{{ind|n}}'')}} が成り立つならば、{{mvar|U}} 上恒等的に {{math|1=''f''{{ind|1}} = ''f''{{ind|2}}}} が成り立つ。

例えば、{{mvar|U}} を {{math|{{unicode|ℂ}}}} 内の連結開集合で、[[実数直線]] {{math|{{unicode|ℝ}}}} 内の少なくとも二点を含む区間 {{mvar|I}}（ゆえに {{mvar|I}} の各点は孤立しない）を含むものとすると、
; 定理: {{mvar|U}} 上で定義された正則函数 {{math|''f''{{ind|1}}, ''f''{{ind|2}}}} が {{mvar|I}} 上で一致するならば、{{mvar|U}} の全域で一致する。
このことは、{{math|{{unicode|ℂ}}}} 内の区間 {{mvar|I}} 上で定義された函数を、{{mvar|I}} を含む {{math|{{unicode|ℂ}}}} 内の連結開集合 {{mvar|U}} 上で定義された解析函数に延長する方法は'''高々一つ'''しか許されないことを意味している。
* つまり例えば、[[複素指数函数]]は、実変数の[[指数函数]]の {{math|{{unicode|ℂ}}}} への'''唯一の'''解析的延長である。
* 函数関係不変の法則: 例えば[[実数]]の対 {{mvar|x, y}} に対して等式 {{math|1=exp(''x'' + ''y'') = exp(''x'')exp(''y'')}} の成立はよく知られているが、解析接続により、{{mvar|x, y}} は任意の複素数としてこの等式は成り立つ。実際、
** {{mvar|y}} を実数として、{{math|{{unicode|ℂ}}}}（これも連結開集合）上で定義される二つの正則函数 {{math|''f''{{ind|1}}, ''f''{{ind|2}}}} を {{math|1=''f''{{ind|1}}(''z'') = exp(''z'' + ''y'')}} および {{math|1=''f''{{ind|2}}(''z'') = exp(''z'')exp(''y'')}} と置けば、これら二つは {{math|{{unicode|ℝ}}}} 上で一致するから、一致の定理により、{{math|{{unicode|ℂ}}}} 上で一致する。つまり、{{mvar|z}} を複素数として、任意の実数 {{mvar|y}} に対し {{math|1=exp(''z'' + ''y'') = exp(''z'')exp(''y'')}} が成り立つ。
** {{mvar|z}} を複素数として、{{math|{{unicode|ℂ}}}} 上定義される二つの正則函数 {{math|''f''{{ind|3}}, ''f''{{ind|4}}}} を {{math|1=''f''{{ind|3}}(''u'') = exp(''z'' + ''u'')}} および {{math|1=''f''{{ind|4}}(''u'') = exp(''z'')exp(''u'')}} と置けば、（一つ前で見たとおり）これら二つは {{math|{{unicode|ℝ}}}} 上一致するから、（一致の定理により）{{math|{{unicode|ℂ}}}} 上で一致する。すなわち、任意の複素数 {{mvar|u}} および {{mvar|z}} に対して {{math|1=exp(''z'' + ''u'') = exp(''z'')exp(''u'')}} は成り立つ。

=== 零点の数 ===
[[偏角の原理]]を用いれば、与えられた正則函数に対して適当な円板上に存在する零点の数を（重複度を込めて）数えることができる。
{{math theorem|1=
複素函数 {{mvar|F}} が閉円板 {{mvar|D}} の近傍で正則で、かつ円板の境界上で消えていないものとすれば、{{mvar|F}} の {{mvar|D}} 内に存在する零点の総数は
: <math>\frac{1}{2\pi i}\oint_{\partial D} \frac{F'(\xi)}{F(\xi)}\,\mathit{d\xi}</math>
で与えられる。
}}
この定理は[[ベッセル関数]]の零点を計算するのにも用いられる({{harvtxt|Kravanja| Ragos |Vrahatis |Zafiropoulos |1998}})。
== 零点の数値計算 ==
解析関数の零点を数値的に求める手法についてはKravanja et al. (2000)、{{harvtxt|Johnson|Tucker|2009}}を参照せよ。

== 注釈 ==
{{reflist|group="*"}}
{{reflist}}

== 参考文献 ==
* {{cite book |和書| first= 貞治 | last= 高木 | title= 解析概論 | edition= 改訂第三版 | publisher= 岩波書店 | year=1983}}
*Kravanja, P., Ragos, O., Vrahatis, M. N., & Zafiropoulos, F. A. (1998). ZEBEC: A mathematical software package for computing simple zeros of Bessel functions of real order and complex argument. Computer physics communications, 113(2-3), 220-238.
* Kravanja, P., Van Barel, M., Ragos, O., Vrahatis, M. N., & Zafiropoulos, F. A. (2000). ZEAL: A mathematical software package for computing zeros of analytic functions. Computer Physics Communications, 124(2-3), 212-232.
* Johnson, T., & Tucker, W. (2009). Enclosing all zeros of an analytic function—A rigorous approach. Journal of Computational and Applied Mathematics, 228(1), 418-423.
== 関連項目 ==
* [[極 (複素解析)]]

== 外部リンク ==
* {{MathWorld|urlname=SimpleZero|title=Simple Zero}}
* {{MathWorld|urlname=Vanishing|title=Vanishing}}
* {{PlanetMath|urlname=ZeroOfAFunction|title=zero of a function}}
* {{PlanetMath|urlname=ZeroesOfAnalyticFunctionsAreIsolated|title=zeroes of analytic functions are isolated}}
* {{ProofWiki|urlname= Definition:Zero_of_Function|title= Definition:Zero of Function}}
* {{ProofWiki|urlname=Definition:Order_of_Zero|title=Definition:Order of Zero}}
* {{ProofWiki|urlname=Zeroes_of_Analytic_Function_are_Isolated|title=Zeroes of Analytic Function are Isolated}}

{{DEFAULTSORT:せろてん}}
[[Category:複素解析]]
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[[Category:数学に関する記事]]