次数付きベクトル空間のソースを表示

{{出典の明記|date=2017年9月}}
[[数学]]における'''次数付きベクトル空間'''（じすうつき&shy;ベクトル&shy;くうかん、{{lang-en-short|''graded vector space''}}; 次数ベクトル空間、次数付き線型空間、次数線型空間）は、{{ill2|次数付け|en|graded (mathematics)}} (''grading'') と呼ばれる追加の構造を持つ[[ベクトル空間]]であり、次数付けにより適当な線型部分空間の[[線型空間の直和|直和]]として記述される。

== 導入 ==
非負整数全体の成す集合 {{mathbf|ℕ}} に対し、'''{{mathbf|ℕ}} で次数付けられたベクトル空間'''はしばしば単に'''次数線型空間'''のように {{mathbf|ℕ}} を落として呼ばれる。次数付きベクトル空間 {{mvar|V}} は、各 {{mvar|V{{sub|n}}}} がベクトル空間となるような形の直和分解 <math display="block">V = \bigoplus_{n \in \mathbb{N}} V_n</math> を持つベクトル空間を言う。また各 {{mvar|n}} に対し {{mvar|V{{sub|n}}}} を'''次数 {{mvar|n}} の斉次成分'''、その各元を'''次数 {{mvar|n}} の斉次元'''と呼ぶ。

次数付き線型空間は一般的によく用いられる概念である。例えば、
<math display="block">\mathbb{C}[z] = \bigoplus_{n \in \mathbb{N}} \mathbb{C}z^n</math>
のように一変数（あるいは多変数）の[[多項式]]全体の成す集合は次数付き線型空間を成し、その次数 {{mvar|n}} の斉次元はちょうど斉次次数 {{mvar|n}} の[[斉次多項式]]&mdash;&mdash;次数 {{mvar|n}} の単項式からなる線型結合&mdash;&mdash;によって与えられる。他にもベクトル空間 {{mvar|V}} に対して、その[[テンソル代数]] {{math|''T''(''V'')}} や[[対称代数]] {{math|''S''(''V'')}} あるいは[[外積代数]] <math>\textstyle \bigwedge(V)</math> などにも自然に次数を定義することができる。

== 一般の定義 ==
次数付きベクトル空間の各斉次成分は、自然数の集合 {{mathbf|ℕ}} に限らず、任意の[[添字集合]] {{mvar|I}} で添字付けることができる。すなわち、'''{{mvar|I}}-次数付き線型空間''' {{mvar|V}} は集合 {{mvar|I}} の各元 {{mvar|i}} で添字付けられた部分線型空間の直和 <math display="block">V = \bigoplus_{i \in I} V_i</math> に書けるベクトル空間を言う。

特に、添字集合 {{mvar|I}} が整数の[[剰余類環]] {{math|'''Z'''/2'''Z'''}} の場合は[[物理学]]において重要で、{{math|'''Z'''/2'''Z'''}}-次数付き線型空間は{{ill2|超ベクトル空間|en|supervector space}}とも呼ばれる<ref>{{SpringerEOM|urlname=Super-space|title=Super-space|author=Leites, D.A.}}</ref>。

== 次数付き準同型 ==
一般の添字集合 {{mvar|I}} に対する {{mvar|I}}-次数線型空間の間の[[線型写像]] {{math|''f'': ''V'' → ''W''}} が'''{{vanc|次数付き線型写像|次数線型写像|次数準同型}}'''であるとは、それが斉次元の次数付けを保つとき、すなわち <math display="block">f(V_i)\subseteq W_i \quad (\forall i \in I)</math> を満たすときに言う。次数線型写像のことを、次数線型空間の間の[[準同型]]または[[射 (圏論)|射]]とも、あるいは'''斉次線型写像'''とも呼ぶ。

係数体および添字集合を固定して考えるとき、次数付き線型空間の全体は次数線型写像を射として[[圏 (数学)|圏]]を成す。

{{mvar|I}} が可換[[モノイド]]であるときには（たとえば自然数の集合 {{mathbf|ℕ}} のときはそう）、より一般に任意の {{math|''i'' ∈ ''I''}} に対する'''斉次性'''を <math display="block">f(V_j)\subseteq W_{i+j}\quad(\forall j \in I)</math> なる条件によって定義することができる。ここで "{{math|+}}" はモノイドの演算とする。さらに {{mvar|I}} が[[消約性]]を満足し、したがって適当な可換群に埋め込めるときは（たとえば自然数の集合 {{mathbf|ℕ}} のときはそう）、{{mvar|I}} の生成する可換群 {{mvar|A}} の任意の元 {{mvar|i}} を次数として斉次線型写像を同じ式（ただし "{{math|+}}" を {{mvar|A}} の群演算として）で定義できる。とくに、任意の {{math|''i'' ∈ ''I''}} に対し、({{math|−''i''}})-次の斉次準同型は <math display="block">f(V_{i+j})\subseteq W_j\quad(\forall j \in I)</math> で定義される。ただし、{{math|''j'' − ''i''}} が {{mvar|I}} に入らないときには {{math|''f''(''V{{sub|j}}'') {{coloneqq}} 0}} とする。

線型空間からそれ自身への線型写像全体が[[自己準同型環]]と呼ばれる[[結合多元環]]を成すのとまったく同様にして、次数線型空間上の斉次自己準同型全体は（次数をモノイド {{mvar|I}} に制限しても、群 {{mvar|A}} の元となることを許しても、それぞれで次数付けられる）結合的な[[次数付き多元環]]を成す。

== 次数線型空間の演算 ==
{{anchors||次数付き直和|次数付きテンソル積}}
{{seealso|ベクトル空間#基本的な構成法}}
ベクトル空間の場合と同様に次数線型空間に対しても、既知の次数線型空間から新たな次数線型空間を与える操作（次数ベクトル空間同士の演算）をいくつか定義することができる。

同じ {{mvar|I}} で次数付けられた二つの {{mvar|I}}-次数線型空間 {{mvar|V, W}} に対し、それらの'''直和'''は <math display="block">V\oplus W := \bigoplus_i X_i;\quad X_i := V_i \oplus W_i\qquad(\forall i\in I)</math> として次数付けられる {{mvar|I}}-次数線型空間を言う。

{{mvar|I}} が[[半群]]であるとき、ふたつの {{mvar|I}}-次数線型空間 {{mvar|V, W}} の'''テンソル積''' <math display="inline">V\otimes W = \bigoplus_i X_i</math> は <math display="block"> X_i := \bigoplus_{j+k=i} V_j \otimes W_k</math> なる {{mvar|I}}-次数線型空間を言う。

== 関連項目 ==
* [[ヒルベルト–ポワンカレ級数]]
* {{ill2|余加群|en|Comodule}}
* {{ill2|次数付き|en|graded (mathematics)}}
* [[次数付き加群]]
* {{ill2|フィルター付き代数|en|filtered algebra}}

== 参考文献 ==
{{reflist}}
* Bourbaki, N. (1974) ''Algebra I'' (Chapters 1-3), {{ISBN|978-3-540-64243-5}}, Chapter 2, Section 11; Chapter 3.

== 外部リンク ==
* {{nlab|urlname=graded+vector+space|title=graded vector space}}

{{DEFAULTSORT:しすうつきへくとるくうかん}}
[[Category:圏 (数学)]]
[[Category:ベクトル空間]]
[[Category:数学に関する記事]]