接線のソースを表示

[[Image:Tangent to a curve.svg|right|thumb|曲線の接線: 赤い線が赤い点において曲線に接している]]
[[Image:Image Tangent-plane.svg|right|thumb|球面の接平面]]

[[初等幾何学]]において'''接する'''（せっする、{{lang-en-short|''tangent''}}）とは、その名を「触れること」を意味する{{lang-la|''[[wikt:tangere#ラテン語|tangere]]''}} に由来し、「ただ触れるだけ」という直観的概念を定式化するものである。特に、曲線の'''接線'''（せっせん、{{lang-en-short|''tangent line'', ''tangent''}}）は、[[曲線|平面曲線]]に対しては、曲線上の一点が与えられたとき、その点において曲線に「ただ触れるだけ」の[[直線]]を意味する。[[ゴットフリート・ライプニッツ|ライプニッツ]]は接線を、曲線上の[[無限小|無限に近い]]二点を通る直線として定義した<ref>Leibniz, G., "[[Nova Methodus pro Maximis et Minimis]]", ''[[Acta Eruditorum]]'', Oct. 1684.</ref>。より具体的に[[解析幾何学]]において、与えられた直線が曲線 {{math|1=''y'' = ''f''(''x'')}} の {{math|1=''x'' = ''c''}}（あるいは曲線上の点 {{math|(''c'', ''f''(''c'')}}）における接線であるとは、その直線が曲線上の点 {{math|(''c'', ''f'' (''c''))}} を通り、[[傾き (数学)|傾き]]が {{mvar|f}} の微分係数 {{math|''f{{'}}''(''c'')}} に等しいときに言う。同様の定義は[[空間曲線]]やより高次の[[ユークリッド空間]]内の曲線に対しても適用できる。

曲線と接線が相接する点は'''接点''' (''point of tangency'') と言い、曲線との接点において接線は曲線と「同じ方向へ」進む。その意味において接線は、接点における曲線の最適直線近似である。

同様に、曲面の'''接平面'''は、接点においてその曲線に「触れるだけ」の[[平面]]である。このような意味での「接する」という概念は[[微分幾何学]]において最も基礎となる概念であり、[[接空間]]として大いに一般化される。

== 歴史 ==
[[エウクレイデス]]は円の接線 ({{lang|grc|ἐφαπτομένη}}) についていくつもの言及を[[ユークリッド原論|『原論』]]第 III 巻 (c. 300 BC) で行っている<ref>{{cite web|last1=Euclid|title=Euclid's Elements|url=http://aleph0.clarku.edu/~djoyce/elements/bookIII/bookIII.html|accessdate=1 June 2015}}</ref>。[[ペルガのアポロニウス]]は『円錐曲線論』(c. 225 BC) において、接線を「その曲線との間にいかなる直線も入り込まない直線」として定めた<ref name="Shenk">{{cite web|last1=Shenk|first1=Al|title=e-CALCULUS Section  2.8|url=http://math.ucsd.edu/~ashenk/Section2_8.pdf|pages=2.8|accessdate=1 June 2015}}</ref>。

[[アルキメデス]] (c. 287–c. 212 BC) は[[アルキメデスの螺旋]]の接線を、曲線に沿って奔る動点の経路を考えることにより求めている<ref name="Shenk"/>

1630年代に[[ピエール・ド・フェルマー|フェルマー]]は{{仮リンク|擬等式の方法|en|adequality}}を発明して、接線の計算などの解析学における問題に取り組み、その手法で放物線の接線を計算した。擬等式の方法は二値の差 {{math|''f''(''x'') &minus; ''f''(''x'')}} を二点間の差 {{mvar|h}} の冪で割るというような手法である。それとは独立に[[ルネ・デカルト|デカルト]]は{{仮リンク|法線の方法|en|method of normals}}を用いたが、それは円の半径が常に円自身の法線となるという観察に基づくものである<ref>{{cite book|last=Katz|first=Victor J.|year=2008|title=A History of Mathematics|edition=3rd|publisher=Addison Wesley|isbn=978-0321387004|page=510}}</ref>。

これらの手法は[[17世紀]]において[[微分法]]の発展に結実する。多くの者の貢献があるが、[[ジル・ド・ロベルヴァル|ロベルヴァル]]は接線を描く一般の方法を、いくつかの基本的な運動の結果として運動が記述できるような動点の軌跡として曲線を見ることにより、発見した<ref>{{cite journal|last=Wolfson|first=Paul R.|year=2001|title=The Crooked Made Straight: Roberval and Newton on Tangents| journal=The American Mathematical Monthly | volume=108 | number=3 | pages=206–216 | doi=10.2307/2695381}}</ref>。また{{仮リンク|ルネ゠フランソワ・ド・スリュス|en|René-François de Sluse}}と{{仮リンク|ヨアネス・フッデ|en|Johannes Hudde}}は接線を求める代数的アルゴリズムを発見した<ref>{{cite book|last=Katz|first=Victor J.|year=2008|title=A History of Mathematics|edition=3rd|publisher=Addison Wesley|isbn=978-0321387004|pages=512–514}}</ref>。更なる発展は、[[ジョン・ウォリス]]や[[アイザック・バロー]]らの貢献も絡んで、[[アイザック・ニュートン]]や[[ゴットフリート・ライプニッツ]]らの理論へ繋がっていく。
 
さて1828年においても接線の定義は「曲線に触れはするが、それを引いたとき曲線を二つに割ることがない直線」<ref>Noah Webster, ''American Dictionary of the English Language'' (New York: S. Converse, 1828), vol. 2, p. 733, [https://archive.org/stream/americandictiona02websrich#page/n733/mode/2up]</ref>というようなものであった。このような古い形式の定義では[[変曲点]]において接線を引くことは排除されてしまう。そういった不都合を持つ古い定義を廃して、現代的な定義と同等の定義を与えたのがライプニッツによる「無限に近い二点を通る直線」としての接線の定義であった。

== 曲線の接線 ==
接線が「接する」という直観的概念は、（函数の定める曲線上の）二点 {{math|A, B}} を通る[[割線]]の列を考えることにより、より陽な形で表すことができる。点 {{math|A}} における接線は、もう一方の点 {{math|B}} を {{math|A}} に近づけるときの割線の極限として与えられる。接線の存在と一意性は、ある種の数学的滑らかさ、すなわち[[微分可能性]]に依存する。例えば、二つの円弧がとがった点（頂点）で交わるならば、その頂点での接線は一意に定義できない（この場合、割線の極限の様子は {{math|B}} を頂点にどちらから近づけるかで変わってしまう）。

ほとんどの点において、接線は曲線と交わらない（接線をどんどん延長していけば、接点とは違うどこか遠くの点で曲線と交わることはあるかもしれないが、今はそういう意味で言うのではない）。しかし、接線がその点において曲線と交わるような接点は、[[変曲点]]である。[[円周]]、[[抛物線]]、[[双曲線]]や[[楕円]]は変曲点を全く持たないが、より複雑な曲線には存在しうる（例えば[[三次函数]]はちょうど一つの変曲点を持つ）。

逆に、与えられた曲線が、曲線上の一点を通る直線の、常に一方の側にあり、かつその直線は接線ではないということも起こり得る。これは例えば、[[三角形]]の頂点を通る三角形と交わらない直線の場合（この場合は接線は存在しない）などがそうである。{{仮リンク|凸幾何学|en|convex geometry}}では、そのような直線を{{仮リンク|支持超平面|en|supporting hyperplane|label=支持直線}}と呼ぶ。

[[file:CIRCLE LINES.svg|thumb|円の、接線(赤)、[[弦 (数学)|弦]](青)、[[割線]](緑)、直径(紫)、半径(薄青)]]
=== 綜合幾何・有限幾何において ===
{{main|{{仮リンク|二次集合|en|quadratic set}}}}
{{仮リンク|綜合幾何学|de|Synthetische Geometrie}}および[[有限幾何学]]において、「接線」は適当な集合に対する「接続」(incidence) の言葉で（つまり可微分性の仮定なしに）定義できる。<ref name="Beutelspacher"> {{Literatur | Autor= [[Albrecht Beutelspacher]], Ute Rosenbaum | Titel= Projektive Geometrie | TitelErg= Von den Grundlagen bis zu den Anwendungen | Reihe= Vieweg Studium: Aufbaukurs Mathematik | Auflage= 2., durchgesehene und erweiterte | Verlag= Vieweg | Ort= Wiesbaden | Jahr= 2004 | ISBN= 3-528-17241-X | Zugriff= 2013-07-31 | Online= [http://d-nb.info/972794298/04 Inhaltsverzeichnis]|Kapitel= 4 ''Quadratische Mengen''}}</ref>

# [[射影平面]]内の'''二次集合'''に対して、その接線とは、その二次集合とちょうど一点のみを共有するか、その二次集合に全く含まれるような直線を言う。
# この定義のもとで、射影平面内の卵形 (oval) に対する接線は、卵形の各点においてちょうど一本だけ存在する。一つの卵形と二点より多くを共有する直線は存在しない。
# [[解析幾何学|解析的]]にこれは、{{仮リンク|ファノの公理|de|Fano-Axiom}}を満足する{{仮リンク|パップスの六角形定理|en|Pappus's hexagon theorem|label=パップスの射影平面}}上の[[二次曲面 (射影幾何学)|二次曲線]]であり、二次集合のもっとも重要な特別の場合である（射影直線が与えられた二次曲線の接線であるとは、その直線の係数ベクトルがその二次曲線を（点集合として）定義する斉二次方程式を満足するときに言う）。

第三の場合は、実[[ユークリッド平面]]を実射影平面のアフィン成分（有限部分）と見て、[[点乗積|標準内積]]を持つものと考えれば、二次曲線と直線の共有点において、二次曲線の定義方程式の函数の勾配が、それらの[[法ベクトル]]であるということと同じである。このような意味において、微分の定める本当の接線に対して、「形式微分」により定義される「代数的」接線もまた考えられる。

右図において、接点で接線と交わる径は、その接線、および円の方程式の接点における勾配、の法ベクトルの方向（つまり、円の中心から接点へ結ぶ向き）も同じく表している。

== 相接する円 ==
{{Main|{{仮リンク|相接円|en|Tangent circles}}}}
[[File:Tangent circles.svg|thumb|相接する円の対: 上が内接、下が外接]]
半径の異なる二つの円がともに同じ平面上にあるとする。それらが'''相接する''' (tangent to each other) とは、それらが一点のみを共有するときに言う。同じことだが、二つの円がそれぞれ[[半径]] {{mvar|r{{sub|i}}}}, 中心 {{math|(''x{{sub|i}}'', ''y{{sub|i}}'')}} {{math|1=(''i'' = 1, 2)}} を持つとすれば、それらが相接するのは　{{math|1=(''x''{{sub|1}} &minus; ''x''{{sub|2}}){{exp|2}} + (''y''{{sub|1}} &minus; ''y''{{sub|2}}){{exp|2}} = (''r''{{sub|1}} &plusmn; ''r''{{sub|2}}){{exp|2}}}} を満たすときである。より細かく:

* 二つの円が'''外接'''する (''externally tangent''; 外部で接する) とは、二円の中心間の距離が二円の半径の和に等しい: <math display="block">\left(x_1-x_2\right)^2+\left(y_1-y_2\right)^2=\left(r_1 + r_2\right)^2</math> ときに言う。
* 二つの円が'''内接'''する (''internally tangent''; 内部で接する) とは、中心間の距離が半径の差に等しい: <math display="block">\left(x_1-x_2\right)^2+\left(y_1-y_2\right)^2=\left(r_1 - r_2\right)^2</math>ときに言う<ref>[http://homepage.eircom.net/~phabfys/circles.html Circles For Leaving Certificate Honours Mathematics by Thomas O’Sullivan 1997]</ref>。

== 曲面の接平面とその一般化 ==
{{Main|接空間}}
与えられた[[曲面]]とその上の点 {{mvar|p}} に対し、{{mvar|p}} における'''接平面''' (''tangent plane'') は、曲線に対する接線の場合と同様の方法で定義される。それは接点 {{mvar|p}} における曲面の最適近似平面であり、{{mvar|p}} の十分近くで曲面上の相異なる三点を通る平面の、三点を {{mvar|p}} に近づけた極限として得ることができる。より一般に、{{mvar|n}}-次元[[ユークリッド空間]]内の {{mvar|k}}-次元[[多様体]]の各点において、{{mvar|k}}-次元[[接空間]]が接している。

== 受験用語としてのタンジェントライン ==
タンジェントラインとは高校数学で登場する入試用語である。三角比の分野で出てくるものである。名前の通りタンジェントに関するラインのことを指す。

一つの単位円上に,円の中心を通る直線を引いた時、サイン、コサインはその中に数値として現れるが、タンジェントは傾きなので、現れづらい。それにより受験生が混乱するために生み出されたライン。x＝1の直線のこと言う。タンジェントラインを引き、それと直線との交わりがタンジェントの値になることを利用している。生まれについては諸説あるが、秋田の高校教師が作ったと言われている。

== 関連項目 ==
* [[ニュートン法]]
* [[法線]]
* {{仮リンク|接触円|en|Osculating circle}}
* {{仮リンク|接触曲線|en|Osculating curve}}
* [[垂直]]
* {{仮リンク|接線影|en|Subtangent}}
* {{仮リンク|支持直線|en|Supporting line}}
* {{仮リンク|接錐|en|Tangent cone}}
* {{仮リンク|接角|en|Tangential angle}}
* {{仮リンク|接成分と法成分|en|Tangential and normal components}}
* {{仮リンク|円の接線|en|Tangent lines to circles}}
* [[重複度#重根の近くでの多項式関数の振る舞い]]
* [[代数曲線#各点の接線]]

== 脚注 ==
{{reflist|2}}

== 参考文献 ==
* {{cite book|author=J. Edwards|title=Differential Calculus|publisher=MacMillan and Co.|location=London|pages=143 ff.|year=1892|url=https://books.google.com/books?id=unltAAAAMAAJ&pg=PA143#v=onepage&q&f=false}}

== 外部リンク ==
{{commons category|Tangency}}
{{Collier's Poster|Tangent}}
* {{springer|title=Tangent line|id=p/t092170}}
* {{MathWorld|title=Tangent Line|urlname=TangentLine}}
* [http://www.mathopenref.com/tangent.html Tangent to a circle] With interactive animation
* [http://www.vias.org/simulations/simusoft_difftangent.html Tangent and first derivative] — An interactive simulation
* [http://math.fullerton.edu/mathews/n2003/TangentParabolaMod.html The Tangent Parabola by John H. Mathews]

{{DEFAULTSORT:せつせん}}
[[Category:初等幾何学]]
[[Category:微分幾何学]]
[[Category:解析幾何学]]
[[Category:数学に関する記事]]