基本群のソースを表示

{{要改訳}}
[[File:Fundamental group torus1.png|right|thumb|[[トーラス]]上の点 ''p'' を始点と終点にもつループ]]
[[数学]]、特に[[代数的位相幾何学|代数トポロジー]]において、'''基本群'''（きほんぐん、{{lang-en-short|fundamental group}}）とは、ある固定された点を始点と終点にもつふたつのループが互いに連続変形可能かを測る[[点付き空間|点付き位相空間]]に付帯する[[群 (数学)|群]]である。直観的には、それは[[位相空間]]にある穴についての情報を記述している。基本群は[[ホモトピー群]]の最初で最も単純な例である。基本群は[[位相幾何学#位相的性質|位相不変量]]である。つまり[[同相]]な位相空間は同じ基本群を持っている。

基本群は[[被覆空間]]の理論を用いて研究することができる。なぜなら、基本群は元の空間に付帯する[[被覆空間#普遍被覆|普遍被覆空間]]の[[被覆空間#被覆変換|被覆変換]]群に一致するからである。基本群の[[交換子部分群#アーベル化|アーベル化]]は、その空間の第一[[ホモロジー群]]と同一視することできる。位相空間が[[複体|単体複体]]に同相のとき、基本群は[[群の表示|群の生成子と関係式]]のことばで明示的に記述することができる。

基本群は[[アンリ・ポアンカレ]]によって1895年に論文"[[:en:Analysis Situs (paper)|Analysis situs]]<ref>{{cite journal
|last=Poincaré |first=Henri |authorlink=Henri Poincaré
|year=1895
|title=Analysis situs |journal=Journal de l'École Polytechnique |volume=1 |series=(2) |issue= |pages=1–123 |ref=Poincaré 1895 |url=http://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k4337198/f7.image
|language=French}} Translated in {{cite book
|last=Poincaré |first=Henri
|chapter=Analysis situs
|title=Papers on Topology: Analysis Situs and Its Five Supplements
|year=2009
|others=Translated by [[John Stillwell]]
|pages=18–99
|url=http://www.maths.ed.ac.uk/~aar/papers/poincare2009.pdf}}</ref>"で定義された。[[ベルンハルト・リーマン]]とポアンカレと[[フェリックス・クライン]]の仕事で[[リーマン面]]の理論において基本群の概念が現れた。基本群は[[曲面#閉曲面の分類|閉曲面の位相的な完全な分類]]を提供するだけでなく、[[複素関数]]の[[モノドロミー]]的性質の記述もする。

== 直感的説明 ==
空間（例えば、曲面）とその中の点があり、この点を始点と終点とするすべてのループ — この点を始点とし周囲を巡り最終的に始点に戻ってくる道 — を考える。2つのループは明らかな方法でつなげることができる、すなわち第一のループに沿って移動してから、第二のループに沿って移動する。2つのループは、ループを壊すことなく一方から他方へ変形できるときに同値であると考える。すべてのそのようなループの集合にこの方法で合成と同値関係を入れたものがその空間の基本群である。

==定義==
''X'' を位相空間、''x''<sub>0</sub> を ''X'' の点とする。''x''<sub>0</sub> を'''基点'''とする{{仮リンク|ループ (位相空間論)|en|Loop (topology)|label=ループ}}と呼ばれる[[連続写像]]
:<math>f\colon [0,1]\to X,\quad f(0)=x_0=f(1)</math>
の集合に注目する。'''基点 ''x''<sub>0</sub> を持つ ''X'' の基本群'''は、この集合を[[ホモトピー]] ''h'' で割った集合
:<math>\{f\colon [0,1]\to X : f(0)=x_0=f(1)\} / h</math>
に、群の乗法を次のように与えたものである。
:<math> (f \ast g) (t) = \begin{cases} f(2t) & 0 \leq t \leq \tfrac{1}{2} \\ g(2t-1) & \tfrac{1}{2} \leq t \leq 1 \end{cases} .</math>
したがってループ ''f''&nbsp;∗&nbsp;''g'' はまずループ ''f'' を「2倍の速度」で回り、次にループ ''g'' を 2倍の速度で回る。2つのループのホモトピー類 [''f''] と [''g''] の積は、[''f''&nbsp;∗&nbsp;''g''] と定義され、この積は代表元の取り方に依らないことを示すことができる。

''x''<sub>0</sub> を基点とするループのすべてのホモトピー類の集合に上記の積を考えたものが、点 ''x''<sub>0</sub> における ''X'' の'''基本群'''をなし、この基本群を
:<math>\pi_1(X,x_0),</math>
あるいは、単に {{π}}(''X'',&nbsp;''x''<sub>0</sub>) と書く。単位元は基点に留まる定数写像で、ループ ''f'' の逆元は ''g''(''t'') = ''f''(1&nbsp;−&nbsp;''t'') で定義されるループ ''g'' である。すなわち、''g'' は ''f'' の逆向きのループである。

基本群は一般的には基点の選択に依存しているが、空間 ''X'' が[[弧状連結]]である限り、[[同型を除いて]]（実は''内部''自己同型の違いを除いて）、この選択は何の差異ももたらさない。したがって弧状連結空間に対し、群の{{仮リンク|同型類|en|isomorphism class}}だけに興味がある場合にはいつでも、曖昧さなしで {{π}}<sub>1</sub>(''X'',&nbsp;''x''<sub>0</sub>) の代わりに {{π}}<sub>1</sub>(''X'') と書くことができる。

== 例 ==
;自明な基本群
''n''次元[[ユークリッド空間]] '''R'''<sup>''n''</sup>や '''R'''<sup>''n''</sup> 内の任意の[[凸集合]]に対して、ループのホモトピー類が唯一つあり、したがって基本群はひとつの元からなる自明な群である。自明な基本群を持つ弧状連結な空間を[[単連結空間]]と呼ぶ。

;無限巡回群になる基本群
例は[[円 (数学)|円]]であり、各々のホモトピー類はある与えられた回数（周る方向によって正にも負にもなりうる）円の周りを周ったすべてのループからなる。''m'' 回巻き付いているループと ''n'' 回巻き付いているループの積は、''m''&nbsp;+&nbsp;''n'' 回巻き付いているループとなる。従って、円の基本群は[[整数]]の加法群 ('''Z''', +) に[[同型]]である。この事実は、 2次元の[[ブラウアーの不動点定理]]や{{仮リンク|ボルスーク・ウラムの定理|en|Borsuk–Ulam theorem}}の証明に使うことができる。

基本群はホモトピー不変量であるので、複素平面から一点を除いた空間の[[回転数 (数学)|回転数]]の理論は、円（の基本群）と同じとなる。

;高次ランクの自由群
位相空間に付帯する[[ホモロジー群]]や高次ホモトピー群とは異なり、基本群は[[アーベル群|可換]]である必要はない。例えば、[[ブーケ (数学)|8の字]]の基本群は、2つの生成元から生成される[[自由群]]である。より一般的に、任意の[[グラフ理論|グラフ]]の基本群は、[[自由群]]である。グラフ ''G'' が連結であれば、自由群のランクは[[全域木]]に入っていない辺の数に等しい。

''n'' 個の穴のあいた平面の基本群も、''n'' 個の生成子を持つ自由群で、''i'' 番目の生成子は ''i'' 番目の穴の周りを回り他のどの穴の周りも回らないループの類である。

;結び目理論
{{main|結び目群}}
非可換基本群を持つもう少し複雑な空間の例は、'''R'''<sup>3</sup> の中の[[三葉結び目]]の[[結び目補空間|補空間]]であり、この場合は[[ブレイド群]] <math>B_3</math> であることが知られている。

== 関手性 ==
f : X → Y を連続写像とし、x<sub>0</sub>&nbsp;∈&nbsp;X と y<sub>0</sub>&nbsp;∈&nbsp;Y は f(x<sub>0</sub>)&nbsp;=&nbsp;y<sub>0</sub> とすると、基点 を x<sub>0</sub> とする X の任意のループは、f と 組み合わせて y<sub>0</sub> を基点とする Y のループを構成することができる。この操作は、ホモトピー同値関係およびループの合成と整合性を持っている。得られる[[群準同型]]は、{{仮リンク|誘導された準同型写像|en|Induced homomorphism (fundamental group)}}と呼ばれ、π(f) と書く。あるいはより一般的には、

:<math>f_* : \pi_1(X, x_0) \to \pi_1(Y,y_0).</math>

とも書かれる。この連続写像から群準同型への写像は、恒等写像および写像の結合と整合性を持っている。言い換えると、（この準同型は、）[[点付き空間の圏]]から[[群の圏]]への[[関手]]である。

この関手は、基点と相対的に[[ホモトピック]]である写像を区別することはできないことが分かる。f, g : X → Y が連続写像で、f(x<sub>0</sub>) = g(x<sub>0</sub>) = y<sub>0</sub> であり、f と g は {x<sub>0</sub>} と相対的にホモトピックであれば、f<sub>∗</sub> = g<sub>∗</sub> となる。結局、2つのホモトピー同値な弧状連結空間は同型な基本群を持つ。

:<math>X \simeq Y \implies \pi_1(X,x_0) \cong \pi_1(Y,y_0).</math>

重要で特別な場合として、X が[[弧状連結]]であれば、いかなる 2つの異なる基点も同型な基本群を与え、同型は与えられた 2つの基点の間の経路を選択することで与えられる。

基本群の関手は、[[積 (圏論)|積]]を[[群の直積]]へ、[[余積]]を余積へ写像する。すなわち、X と Y が弧状連結であれば、 

:<math>\pi_1 (X\times Y) \cong \pi_1(X) \times \pi_1(Y)</math>

と 

:<math>\pi_1 (X\vee Y) \cong \pi_1(X) * \pi_1(Y)</math>

が成り立つ。（後者の公式では、<math>\vee</math> は位相空間の[[ウェッジ和]]を表し、* は群の[[自由積]]を表す。）双方の公式は任意の積に対して一般化することができる。さらに後者の式は、[[ザイフェルト–ファン・カンペンの定理]]の特別な場合になっている。ここでザイフェルト–ファン・カンペンの定理は、基本群の関手が包含写像に沿った{{仮リンク|押し出し (圏論)|label=押し出し|en|Pushout (category theory)}}(pushout)を押し出しに写すという定理である。

==ファイブレーション==
{{Main|{{仮リンク|ファイブレーション|en|Fibration}} }}
空間の積の一般化は、{{仮リンク|ファイブレーション|en|Fibration}}により与えられる。 

:<math>F \to E \to B. </math>

ここに全空間 E は、底空間 B とファイバー(fiber) F の｢{{仮リンク|ツイスト (数学)|label=ツイスト|en|Twist (mathematics)}}した積」の一種である。一般に、B, E, F の基本群は、[[ホモトピー|高次ホモトピー群]]を含む[[ファイブレーションの長完全系列]]の項である。空間がすべて連結のとき、この系列は次の基本群についての結果をもたらす。

* F が単連結であれば、π<sub>1</sub>(B) と π<sub>1</sub>(E) は同型である。
* E が可縮であれば、π<sub>n+1</sub>(B) と π<sub>n</sub>(F) は同型である。

後者の式は、しばしば次のような状況へ応用される。E を B の{{仮リンク|道 (位相空間論)|en|path (topology)}}の空間、F を B の{{仮リンク|ループ空間|en|loop space}}とするか、もしくは、B を [[位相群]] G の[[分類空間]] BG とし、E を普遍 G-バンドル EG とする。

== 1次のホモロジー群との関係 ==
位相空間 X の基本群は、ループは特異 1-サイクルでもあるので、1次の特異[[ホモロジー群]]と関連している。基点を x<sub>0</sub> とする各々のループのホモトピー類をループのホモロジー類へ写像することは、基本群 π<sub>1</sub>(X,&nbsp;x<sub>0</sub>) からホモロジー群 H<sub>1</sub>(X) への準同型を与える。X が弧状連結であれば、この準同型は[[全射]]で、その[[核 (代数学)|核]]は、π<sub>1</sub>(X,&nbsp;x<sub>0</sub>) の[[交換子部分群]]であり、従って H<sub>1</sub>(X) は π<sub>1</sub>(X,&nbsp;x<sub>0</sub>) のアーベル化に同型である。これは代数トポロジーの[[フレヴィッツの定理]]の特別な場合である。

==普遍被覆空間==
{{Main|被覆空間}}
X が弧状連結な位相空間であり、局所[[弧状連結]]で局所単連結であれば、X は単連結な[[被覆空間#普遍被覆|普遍被覆空間]]を持ち、その上で基本群 π(X,x<sub>0</sub>) は[[商位相空間|商空間]] X に、[[被覆空間#被覆変換|被覆変換]]により自由に[[群作用|作用]]する。この空間は、ペア (x,&nbsp;γ) をとることで、基本群と同様に構成することができる。ここに x は X の点であり、γ は x<sub>0</sub> から x への道のホモトピー類で、π(X,&nbsp;x<sub>0</sub>) の作用は経路を足すことによる。この空間は一意な被覆空間として決まる。

===例===
;円
円 '''S'''<sup>1</sup> の普遍被覆は、直線 '''R''' で、'''S'''<sup>1</sup> = '''R'''/'''Z''' を得る。よって、任意の基点 x について、π<sub>1</sub>('''S'''<sup>1</sup>,''x'') = '''Z''' となる。

;トーラス
前の例である 2つの円のカルテシアン積をとることにより、トーラス T = '''S'''<sup>1</sup> × '''S'''<sup>1</sup> の普遍被覆は平面 '''R'''<sup>2</sup> である。T = '''R'''<sup>2</sup>/'''Z'''<sup>2</sup> を得る。このようにして、π<sub>1</sub>(T,x) = '''Z'''<sup>2</sup> が基点 x について成り立つ。

同様にして、n-次元のトーラスの基本群は、 '''Z'''<sup>''n''</sup> となる。

;実射影空間
n ≥ 1 に対し、n-次元実射影空間 '''P'''<sup>n</sup>('''R''') は、n-次元球面 '''S'''<sup>n</sup> を中心対称性で割って '''P'''<sup>n</sup>('''R''') = '''S'''<sup>n</sup>/'''Z'''<sub>2</sub> 求められる。n-球面 '''S'''<sup>n</sup> は n ≥ 2 では単連結なので、実射影空間の普遍被覆であることが結論づけられる。このようにして、'''P'''<sup>n</sup>('''R''') の基本群は、 n ≥ 2 に対して '''Z'''<sub>2</sub> である。

;リー群
G が連結かつ単連結な[[コンパクトリー群]]とする。例えば、G を[[特殊ユニタリ群]] SU(''n'') とし、Γ を G の有限部分群としよう。すると、[[等質空間]] X&nbsp;=&nbsp;G/Γ は基本群 Γ を持つ。Γ は右から乗法的に普遍被覆空間 G の上に作用する。この構成には多くの種類があるが、最も重要な構成は{{仮リンク|局所対称空間|en|locally symmetric space}} <math> X = \Gamma\backslash G/K </math> である。ここでは、 
* G は非コンパクト単連結、連結な[[リー群]]（しばしば、[[半単純リー群|半単純]]）
* K は G の極大コンパクト部分群
* Γ は G の離散かつ可算な[[捩れ (代数学)|ねじれのない]]部分群

が成り立つ。

この場合には、基本群は Γ であり、普遍被覆空間 G/K は[[可縮]]である（[[リー群]]の{{仮リンク|カルタン分解|en|Cartan decomposition}}による）。

例では、G&nbsp;=&nbsp;SL(2, '''R'''), K&nbsp;=&nbsp;SO(2) で、Γ は[[モジュラー群]] SL(2, '''Z''') の任意のねじれのない{{仮リンク|合同部分群|en|congruence subgroup}}である。

明らかにわかるように、弧状連結な位相空間である普遍被覆空間 H が、再び、弧状連結な位相群 G である。さらに、被覆写像は G から H の上への連続で開準同型であり、[[核 (代数学)|核]]は Γ で、G の閉じた離散正規部分群である。

:<math> 1 \to \Gamma \to G \to H \to 1.</math>

G は連結群で離散群 Γ 上の共役により連続作用を持っているので、自明に作用するはずで、従って、Γ は G の[[群の中心|中心]]の部分群となっているはずである。特に、π<sub>1</sub>(H) =  Γ は[[アーベル群|可換群]]で、このことも被覆空間を使うことなしに容易に直接わかる。群 G は H の'''[[被覆空間#普遍被覆群|普遍被覆群]]'''と呼ばれる。

普遍被覆群が示唆しているように、位相群の基本群と群の中心とは類似関係にあり、このことは{{仮リンク|被覆群の束|en|Covering_group#Lattice_of_covering_groups}}に詳しく記載されている。

==単体複体の辺ループ群==
[[連結空間|連結]]な[[単体複体]] {{mvar|X}} の'''辺道'''は、{{mvar|X}} の辺で繋がれた頂点の鎖として定義される。ふたつの辺道が'''辺同値'''とは、一方の辺道が他方の辺道から、その適当な辺を {{mvar|X}} 内の三角形の二つの対辺で置き換える操作を連続的に行って得られるときに言う。{{mvar|X}} の固定した頂点 {{mvar|v}} における'''辺ループ'''とは、{{mvar|v}} を始点かつ終点とする辺道を言う。'''辺ループ群''' {{math|''E''(''X'', ''v'')}} は、{{mvar|v}} における辺ループの辺同値類全体の成す集合として定義され、積や逆元は辺ループの連接と逆転により定義される。

辺ループ群は {{mvar|X}} の{{ill2|単体的集合|en|geometric realisation|label=幾何学的実現}} {{math|{{abs|''X''}}}} の基本群 {{math|''π''{{sub|1}}({{abs|''X''}}, ''v'')}} に自然同型となる。辺ループの各同値類は、{{mvar|X}} の{{仮リンク|n-スケルトン|label=2-スケルトン|en|n-skeleton}} {{math|''X''{{sup|2}}}}（つまり、{{mvar|X}} の頂点、辺、三角形）にしか依らないから、二つの群 {{math|''π''{{sub|1}}({{abs|X}}, ''v'')}} と {{math|''π''{{sub|1}}({{abs|''X''{{sup|2}}}}, ''v'')}} は同型である。

辺ループ群は[[群の表示|生成元と基本関係]]を用いて陽に書き表せる。{{mvar|T}} が {{mvar|X}} の{{仮リンク|n-スケルトン|label=1-スケルトン|en|n-skeleton}}における極大[[全域木]]ならば、{{mvar|T}} に現れない {{mvar|X}} の有向辺道を生成元とし、{{mvar|X}} 内の三角形に対応する辺同値を基本関係とする群に {{math|''E''(''X'', ''v'')}} は自然同型になる。同様な結果は、{{mvar|T}} を {{mvar|X}} の任意の[[単連結]]&mdash;特に[[可縮]]な&mdash;部分複体に取り換えても成立する。これはしばしば、基本群を計算する実用的な方法を与え、また、任意の[[有限表示群]]が有限単体複体の基本群として生じることを示すための利用できる。これは（その基本群によって分類される）[[曲面|位相的曲面]]に対して用いられる古典的方法のひとつでもある。

有限連結単体複体 {{mvar|X}} の'''普遍被覆空間'''は、辺道を用いて単体複体として直接に記述できる。その頂点は {{mvar|X}} の頂点 {{mvar|w}} と {{mvar|v}} から {{mvar|w}} への辺道の辺同値類 {{mvar|γ}} との順序対 {{math|(''w'', ''γ'')}} である。{{math|(''w'', ''γ'')}} を含む {{mvar|k}}-単体は自然に {{mvar|w}} を含む {{mvar|k}}-単体に対応する。{{mvar|k}}-単体の別の頂点 {{mvar|u}} は辺 {{mvar|wu}} を、従って連接により {{mvar|v}} から {{mvar|u}} への新しい道 {{mvar|γ{{sub|u}}}} を与える。点 {{math|(''w'', ''γ'')}} および {{math|(''u'', ''γ{{sub|u}}'')}} は、普遍被覆空間へ「送られた」単体の頂点である。辺ループ群は連接により普遍被覆空間に自然に作用して、その作用は普遍被覆空間の単体構造を保ち、かつその作用による普遍被覆空間の商は {{mvar|X}} にちょうど一致する。

よく知られているように、この方法は任意の位相空間の基本群を計算することにも使われる。このことは疑いなく、{{仮リンク|エデュアール・チェック|en|Eduard Čech}}と{{仮リンク|ジャン・ルレイ|en|Jean Leray}}により知られていて、明らかには論文 {{harvtxt|Weil|1960}} の中に注意として記載されていて、L. Calabi, W-T. Wu や N. Berikashvili といった多くの著者により証明が与えられている。被覆の中の有限個の開集合の空でない共通部分がいつでも可縮となるような有限な開被覆を持つコンパクト空間 X の最も単純なケースでは、基本群は{{仮リンク|開被覆の脈体|en|Nerve of an open covering}}(nerve of the covering)に対応する単体複体の辺ループ群と同一視することができる。

== 実現性 ==
*すべての群は、2 次元（もしくはより高次元の）[[連結空間|連結]]な{{仮リンク|CW複体|en|CW-complex}}として実現することができる。上記で注意したように、自由群でさえ、1-次元のCW複体の基本群として現れる（つまりグラフである）。

*すべての[[群の表示#定義|有限表示された群]]は、4 次元（もしくは、それ以上の高次元の）[[コンパクト空間|コンパクト]]な連結[[微分可能多様体]]の基本群として実現できる。しかし、低次元の多様体の基本群として実現されるには、厳しい制限がある。例えば、ランク 4 もしくはそれ以上の[[自由アーベル群]]は、次元が 3 以下の多様体の基本群としては実現できない。

== 関連する概念 ==
基本群は、空間の 1-次元の穴の構造を測る。「高次元の穴」の研究のためには、[[ホモトピー群]]が使われる。X の n-ホモトピー群の元は、'''S'''<sup>n</sup> から X への（基点を保つ）写像のホモトピー類である。

特別な基点を持つループの集合は、ホモトピックなループを同値と考えずに研究される。この大きな対象は、{{仮リンク|ループ空間|en|loop space}}である。

[[位相群]]では、つなぎ合わせではなく各点における積によって、ループの集合に別の群の積を割り当てることもできる。この群が{{仮リンク|ループ群|en|loop group}}である。

===基本亜群===
さらに、ひとつの基点を選んでホモトピー同値なループを考えるのではなく、空間の中の「すべて」の道のホモトピー類を考えることもできる（始点と終点は固定する）。これは群ではなく、{{仮リンク|亜群|en|groupoid}}であり、空間の'''基本亜群'''となる。

さらに一般的に、幾何学的な状況に沿った選択をした基点の集合 A の上の基本亜群を考えることができて、例えば円周の場合は、共通部分が2つの連結成分を持つような、2つの連結開集合の合併として表現できるので、各成分の中から1つずつ基点を選択することができる。この理論が現れたのは、'''Topology and groupoids'''として現在は出版されている1968年と1988年の版で与えられ、[[被覆空間]]や[[群作用#軌道と等方部分群|軌道空間]]と関連する考え方も記載されている。

==注==
{{reflist}}

==参考文献==
{{参照方法|date=2015-07}}
* [[Ronald Brown (mathematician)|Ronald Brown]], ''Topology and groupoids'', Booksurge (2006).  ISBN 1-4196-2722-8
* Joseph J. Rotman, ''An Introduction to Algebraic Topology'', [[Springer Science+Business Media|Springer-Verlag]], ISBN 0-387-96678-1
* [[Isadore Singer]] and John A. Thorpe, ''Lecture Notes on Elementary Geometry and Topology'', Springer-Verlag (1967) ISBN 0-387-90202-3
* [[Allen Hatcher]], [http://www.math.cornell.edu/~hatcher/AT/ATpage.html ''Algebraic Topology''], [[Cambridge University Press]]  (2002) ISBN 0-521-79540-0
* [[Peter Hilton]] and [[Shaun Wylie]], ''Homology Theory'', Cambridge University Press (1967) [warning: these authors use ''contrahomology'' for [[cohomology]]]
* Richard Maunder, ''Algebraic Topology'', [[Dover Publications|Dover]] (1996) ISBN 0-486-69131-4
* [[Deane Montgomery]] and Leo Zippin, ''Topological Transformation Groups'', Interscience Publishers (1955)
* [[James Munkres]], ''Topology'', [[Prentice Hall]] (2000) ISBN 0-13-181629-2
* [[Herbert Seifert]] and William Threlfall, ''A Textbook of Topology'' (translated from German by Wofgang Heil), [[Academic Press]] (1980), ISBN 0-12-634850-2
* [[Edwin Spanier]], ''Algebraic Topology'', Springer-Verlag (1966) ISBN 0-387-94426-5
* [[André Weil]], ''On discrete subgroups of Lie groups'', Ann. Math. '''72''' (1960), 369-384.

==関連項目==
* [[ホモトピー|ホモトピー群]]、基本群の一般化。[[アーベル多様体]]の基本群にも同様な考え方がある。（{{仮リンク|エタール基本群|en|étale fundamental group}}や、{{仮リンク|軌道体|en|orbifold}}(orbifold)に対しては、軌道体の基本群([[:en:orbifold#Orbifold fundamental group]])がある。）

==外部リンク==
{{Commons category}}
* {{planetmath reference|id=849|title=Fundamental group}}
* {{planetmath reference|id=3941|title=Fundamental groupoid}}
*{{Mathworld | urlname=FundamentalGroup  | title=Fundamental group  }}
* Dylan G.L. Allegretti, [http://www.math.uchicago.edu/~may/VIGRE/VIGREREU2008.html ''Simplicial Sets and van Kampen's Theorem'']: A discussion of the fundamental groupoid of a topological space and the fundamental groupoid of a simplicial set
* [http://www.istia.univ-angers.fr/~delanoue/topo_alg/ Animations to introduce to the fundamental group by Nicolas Delanoue]

{{デフォルトソート:きほんくん}}
[[Category:位相幾何学]]
[[Category:代数的位相幾何学]]
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