可解群のソースを表示

{{Groups}}
[[数学]]、特に[[群論]]の分野において、'''可解群'''（かかいぐん、{{lang-en-short|solvable group, soluble group}}、{{lang-de-short|Auflösbare Gruppe}}）は、[[アーベル群]]から[[群の拡大]]を用いて構成できる群のことである。つまり、可解群は[[導来列]]が[[自明な群]]で終わるような群のことである。

歴史的には、「可解」という語は[[ガロア理論]]による5次以上の一般の[[方程式]]は代数的に解けないこと（[[アーベル–ルフィニの定理]]）の[[証明]]から来ている。特に、[[標数]]0の[[可換体|体]]上の[[代数方程式]]が[[根号]]を用いて解けるのは対応する[[ガロア群]]が可解群であるとき、およびそのときに限る{{sfn|Mikhalev|Pilz|2002|loc={{google books quote|id=O1LqCAAAQBAJ|page=362|Theorem D.3.1 (Galois)}}}}。

==定義==
群<math>G</math>は、各[[剰余群|因子]]がすべて[[アーベル群]]であるような{{仮リンク|連正規列|en|Subnormal series}}を持つとき、つまり部分群の列
:<math>\{1\}=G_0\triangleleft G_1\triangleleft\cdots\triangleleft G_k=G</math>
があって剰余群<math>G_j/G_{j-1}</math> がアーベル群であるとき、'''可解群'''と呼ばれる{{sfn|Rotman|1995|p={{google books quote|id=4x8BCAAAQBAJ|page=102|102}}}}。

また、<math>G</math>の[[導来列]]
:<math>G\triangleright G^{(1)}\triangleright G^{(2)} \triangleright \cdots</math>
(<math> G^{(k)}</math>は<math>G^{(k-1)}</math>の[[交換子群]])が最終的に ''G'' の自明な部分群{1}に達することと定義もできる{{sfn|Rotman|1995|p=105|loc={{google books quote|id=4x8BCAAAQBAJ|page=105|Theorem 5.23}}}}。任意の群''H''とその正規部分群''N''について、商群 ''H'' / ''N''は''N''が''H''<sup>(1)</sup>を部分群として含むとき、およびそのときに限りアーベル群であるため、この2つの定義は同値である。<math>G^{(n)}=\{1\}</math>となるような最小の''n''は可解群''G''の'''長さ'''あるいは'''導来長さ''' (derived length) と呼ばれる。

有限群の場合は、同値な定義として「[[組成列]]においてすべての商が[[素数]][[群の位数|位数]]の[[巡回群]]である」というものもある。有限群の組成列の長さは有限であり、全ての[[単純群|単純]]アーベル群は素数位数の巡回群であるため、この定義は上の定義と同値である。[[ジョルダン・ヘルダーの定理]]より、一つの組成列が上記の性質を持つ場合、すべての組成列は同様に上記の性質を持つことが保証される。[[多項式]]の[[ガロア群]]の場合は、巡回群はある体の上の[[冪根]]に対応する。無限群の場合は必ずしも同値ではない。たとえば、[[整数]]の[[加法群]] '''Z''' のすべての非自明な部分群は'''Z'''自身と[[同型]]であるため、'''Z'''は組成列を持たないが、正規列{0,'''Z'''}を持ちその唯一の商 '''Z'''/0 は '''Z'''と同型（つまり可換）だから、可解群である。

== 例 ==
[[file:Hierarchy_of_finite_groups.svg|thumb|300px|基本的な有限群のクラスがなす階層]]
全てのアーベル群は自明に可解群である。これは正規列が[[自明な群]]と自分自身で与えられるからである。しかし非アーベル群は可解群であるとは限らない。

より一般的に、すべての[[冪零群]]は可解群である。特に、有限[[p-群|''p''-群]]は冪零群であるため可解群である。

冪零群ではないが可解群である位数の小さい群の一例は、[[対称群]]''S''<sub>3</sub>である。
実は、位数最小の非アーベル単純群が5次の[[交代群]]''A''<sub>5</sub>であり、したがって位数60未満のすべての群は可解である。

群 ''S''<sub>5</sub>は可解群ではない。 ''S''<sub>5</sub>は組成列{1, ''A''<sub>5</sub>, ''S''<sub>5</sub>}を持ち(そして[[ジョルダン・ヘルダーの定理]]より全ての組成列はこれと同値)、因子群はそれぞれ''A''<sub>5</sub>、[[巡回群|''C''<sub>2</sub>]]と同型であるが、''A''<sub>5</sub>はアーベル群ではないためである。この議論を一般化すると、''n'' ≧5について''A''<sub>n</sub>は''S''<sub>n</sub>の最大の正規非アーベル単純群であることが分かる。よって''n''≧5のとき''S''<sub>n</sub>は可解群ではない。この事実は、''n''≧5に対して''n''次の[[代数方程式]]であって冪根で解けないものがあるという[[アーベル-ルフィニの定理]]の証明のキーとなるステップである。この性質は計算複雑性理論においても{{仮リンク|バーリントンの定理|en|Barrington's theorem}}の証明で使われている。

単位的な[[可換環]]上の[[正則行列|正則]]な[[上三角行列]]がなす群は可解群である{{sfn|Robinson|1991|p={{google books quote|id=zLfkBwAAQBAJ|page=128|128}}}}。

全ての[[シローの定理|''p''-シロー部分群]]が巡回群であるような有限群は2つの巡回群の[[半直積]]であり、特に可解群である。そのような群は{{仮リンク|Z群|en|Z-group}}と呼ばれる。

== 性質 == 
群の可解性は多くの操作によって保存される。<!-- closed under operationを「操作によって保存される」と翻訳 -->

* ''G''が可解群であり、全射準同型''G''→''H''が存在する場合、''H''も可解群である。[[同型定理|第一同型定理]]より同値であるが、''G''が可解群で''N''が''G''の[[正規部分群]]であれば、商群''G''/''N''は可解群である{{sfn|Rotman|1995|p=102|loc={{Google books quote|id=4x8BCAAAQBAJ|page=102|text=Every quotient of a solvable group is solvable|Theorem 5.16}}}}。
*上の性質は次のように拡張できる: ''G''が可解群であるのは、''N''と''G''/''N''がともに可解群であるとき、およびその時に限る。
* ''G'' が可解群であり、''H''が''G''の部分群であるとき、''H''は可解群である{{sfn|Rotman|1995|p=102|loc={{Google books quote|id=4x8BCAAAQBAJ|page=102|text=Every subgroup H of a solvable group G is itself solvable|Theorem 5.15}}}}。
* ''G''と''H''が可解群であるとき、[[群の直積|直積]]''G'' &times; ''H''は可解群である。

可解性は[[群の拡大]]によっても保存される。
* ''H''と''G''/''H''が可解群であれば、''G''は可解群である。特に、''N''と''H''が可解群であれば、''N''と''H''の[[半直積]]も可解群である。

可解性は[[輪積]]（リース積）によっても保存される。
*''G''と''H''が可解群であり、''X''が[[群作用|''G''-集合]]である場合、''X''に関する''G''と''H''のリース積は可解群である。

任意の正の整数''N''に対して、derived lengthが高々''N''の可解群すべての集合は群全体の成す{{仮リンク|等式クラス|en|Variety (universal algebra)}}の部分等式クラスであり、準同型の像、部分代数、[[群の直積|直積]]をとる操作によって閉じている。有界でない長さの導来列を持つ可解群の直積は可解群ではないので、すべての可解群からなるクラスは等式クラスではない。
<!-- variety の訳語の問題を避けて HSP 定理により等式クラスで代用した -->

==定理==
===バーンサイドの定理===
{{main|[[バーンサイドの定理]]}}
バーンサイドの定理は、''p'',''q''を[[素数]]、''a'',''b''を[[非負整数]]として、''G''の[[群の位数|位数]]が
:<math>p^a q^b\ </math>
である場合、''G''は可解群である、というものである。

===ホールの定理===
{{main|ホール部分群#ホールの定理|ホール部分群#ホールの定理の逆}}
{{節スタブ}}

===フェイト・トンプソンの定理===
{{main|{{仮リンク|フェイト・トンプソンの定理|en|Feit-Thompson theorem}}}}
フェイト・トンプソンの定理（奇数位数定理）によればすべての奇数位数の有限群は可解群である。特に、有限群が単純群であれば、それは素数位数の巡回群か偶数位数である。

===シュライアー予想===
{{main|{{仮リンク|シュライアー予想|en|Schreier conjecture}}}}
[[有限単純群]]の[[外部自己同型群]]は可解群である。

==関連する概念==
===超可解群===
可解性よりも強い条件として、群''G''は{{仮リンク|不変正規列|en|normal series}}（連正規ではない正規列）を持ち、その因子群がすべて巡回群であるとき、'''超可解群'''(supersolvable group)であるという。つまり、
:<math>\{1\} = G_0\triangleleft G_1\triangleleft \cdots \triangleleft G_n = G</math>
において、各''G''<sub>''i''</sub>は''G''の正規部分群であり、<math>G_i/G_{i-1}</math>は巡回群であるような''G''<sub>1</sub>,...,''G''<sub>''n''</sub>が存在するとき、''G''は超可解群であるという。
正規列はその定義より有限の長さを持つので、[[非可算集合|非可算]]の群は超可解群ではない。実際、すべての超可解群は[[有限生成]]であり、アーベル群は有限生成であるとき、およびその時に限り超可解群である。交代群''A''<sub>4</sub>は可解群であるが超可解群ではない群の例である。

有限生成群に限って議論すれば、群のクラスには以下のような強さの関係がある(右側ほど強い条件である):

:[[巡回群]] < [[アーベル群]] < [[冪零群]] < [[超可解群]] < {{仮リンク|多重巡回群|en|polycyclic group}} < '''可解群''' < [[有限生成群]]

===実質的可解群===
群''G''は、有限[[部分群の指数|指数]]の可解[[部分群]]を持つとき'''実質的可解群'''(virtually solvable group)<!-- virtuallyを「実質的」と翻訳 -->と呼ばれる。これは{{仮リンク|実質的アーベル群|en|virtually abelian}}と似た語法である。すべての可解群は当然実質的可解群である。なぜなら指数1の可解部分群(自分自身)が存在するからである。

==脚注==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist|2}}

==参考文献==
*{{Citation | last1=Malcev | first1=A. I.|title=Generalized nilpotent algebras and their associated groups | mr=0032644  | year=1949 | journal=Mat. Sbornik N.S. | volume=25 | issue=67 | pages=347–366}}
*{{Citation
|last1      = Mikhalev
|first1     = Alexander V.
|last2      = Pilz
|first2     = Günter
|year       = 2002
|title      = The Concise Handbook of Algebra
|url        = {{google books|O1LqCAAAQBAJ|plainurl=yes}}
|publisher  = Springer Science & Business Media
|isbn       = 978-94-017-3267-3
|mr         = 1966155
|zbl        = 1008.00004
}}
* {{cite book
|last1      = Robinson
|first1     = Derek J. S. 
|year       = 1996
|title      = A Course in the Theory of Groups
|edition    = Second
|series     = Graduate Texts in Mathematics
|volume     = 80
|url        = {{google books|zLfkBwAAQBAJ|plainurl=yes}}
|publisher  = Springer-Verlag
|isbn       = 0-387-94461-3
|mr         = 1357169
|zbl        = 0836.20001 
|doi        = 10.1007/978-1-4419-8594-1
|ref        = harv
}}
*{{Citation |last1=Rotman |first1=Joseph J.|title=An Introduction to the Theory of Groups |url={{google books|4x8BCAAAQBAJ|plainurl=yes}} |edition=4th |series=Graduate Texts in Mathematics |volume=148 |year=1995 |publisher=Springer|isbn=978-0-387-94285-8|mr=1307623|zbl=0810.20001}}

==外部リンク==
*{{SpringerEOM | title=Solvable group | id=Solvable_group}}
*{{MathWorld|title=Solvable Group|urlname=SolvableGroup}}

{{Abstract-algebra-stub}}
{{デフォルトソート:かかいくん}}
[[Category:可解群|*]]
[[Category:群論]]
[[Category:数学に関する記事]]