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[[数学]]の、特に[[解析学]]における'''冪函数'''（巾函数、べきかんすう、{{lang-en-short|''power function''}}）は、適当な定数 {{mvar|a}} に対して定義される[[函数]]
: <math>f_a\colon x \mapsto x^a</math>
を言う。ここに定数 {{mvar|a}} は、この冪函数の冪指数 (exponent) と呼ばれ、文脈により[[自然数]]、[[整数]]、[[有理数]]、[[実数]]、[[複素数]]などに値をとることができるが、{{mvar|a}} の持つ性質によって対応する函数 {{mvar|f{{sub|a}}}} の自然な[[定義域]]が異なってくることに注意が必要である。

冪函数は実変数に対する函数として一般に定義することができる。自然数冪を持つ冪函数は、[[多項式函数]]あるいは[[冪級数]]の展開の[[基底 (線型代数学)|基底]]を与える。また実数冪を持つ冪函数は[[物理学]]、[[生物学]]、[[経済学]]などにおいて関係するモデルを与える。

複素変数に関して有効な議論も中にはあるが、以下では専ら実変数 {{mvar|x}} に関する冪函数について述べる。またより一般には、上記函数の定数倍 {{mvar|px{{exp|a}}}}（単項式函数）をも含む意味で冪函数と呼ぶ場合もあるが、本項では常に {{math|1=''p'' = 1}} のみを扱う。

== 自然数冪 ==
[[File:Puissance entière.svg|thumb|right|冪指数がそれぞれ {{nowrap|0 (黒)}}, {{nowrap|1 (青)}}, {{nowrap|2 (赤)}}, {{nowrap|3 (緑)}}, {{nowrap|4 (橙)}}, {{nowrap|5 (紫)}} の冪函数]]
各[[自然数]] {{mvar|n}} に対して {{math|ℝ}} 上の函数 
:<math> f_n(x):= x^n= \underbrace{x \times \cdots \times x}_n</math>
が定義できる。この函数は、
* {{mvar|n}} が[[偶数]]のとき[[偶函数]]、すなわち任意の実数 {{mvar|x}} に対して {{math|1=''f''(–''x'') = ''f''(''x'')}} であり、対応する[[函数のグラフ]]は {{mvar|y}}-軸に関して[[線対称]]になる。
* {{mvar|n}} が[[奇数]]のとき[[奇函数]]、すなわち任意の実数 {{mvar|x}} に対して {{math|1=''f''(–''x'') = –''f''(''x'')}} であり、対応するグラフは[[原点 (数学)|原点]]に関して[[点対称]]である。

小さい {{mvar|n}} に対する冪函数を具体的に書けば: 
* {{math|1=''n ''= 1}} のとき、[[恒等写像|恒等変換]] {{math|1=''f''{{sub|1}}(''x'') = ''x ''.}} これはもっとも単純な[[一次函数]]であり、[[線型変換]]にもなる。
* {{math|1=''n ''= 2}} のとき、[[平方数|平方函数]] {{math|1=''f''{{sub|2}}(''x'') = ''x''{{exp|2}}.}} これはもっとも単純な[[二次函数]]であり、グラフが[[放物線]]となる唯一の冪函数である.
* {{math|1=''n ''= 3}} のとき、{{math|1=''f''{{sub|3}}(''x'') = ''x''{{exp|3}}}} はもっとも単純な[[三次函数]]である.
* {{math|1=''n ''= 0}} の場合もふつうはこの仲間に入る。これは規約により、対応 {{math|''x'' {{mapsto}} ''x''{{exp|0}}}} というよりは、定数函数 {{math|''f''{{sub|0}}(''x'') ≡ 1}} として定義される。

これらの函数はすべて、{{math|1=''x'' = 1}} における値が {{math|1}} に等しい。また特に、{{math|''m'' < ''n''}} のとき
* <math>x^n < x^m \quad(0< x < 1),</math>
* <math>x^n > x^m \quad(1 < x)</math>
が成り立つ。

自然数冪の場合には、定数函数 {{math|1}} となる {{math|1=''n'' = 0}} の場合を除けば、任意の冪函数は正の実軸上で[[単調函数|狭義単調]]に、{{math|1=''x'' = 0}} のときの値 {{math|0}} から {{math|''x'' → +∞}} のときの極限 {{math|+∞}} まで増大する。対照的に負の実軸上では区別が生じ、{{mvar|n}} が零でない偶数のとき狭義単調減少であり、{{mvar|n}} が奇数のとき狭義単調増大になる（特に {{math|''n'' &ne; 1}} ならば原点に[[変曲点]]を持つ）。

自然数冪函数は[[多項式函数]]の構成に利用できる。また、自然数冪函数の全体は、別の函数を[[冪級数]]に展開する際の基底を与える。

== 負の整数冪 ==
[[File:Puissance inverse.svg|thumb|right|冪指数がそれぞれ {{nowrap|–1 (青)}}, {{nowrap|–2 (赤)}}, {{nowrap|–3 (緑)}} の冪函数]]
各負の整数 {{math|&minus;''n''}} に対して、非負実数の集合 {{math|1='''R'''* {{coloneqq}} '''R''' {{setminus}} {{mset|0}} = {{mset|''x'' &isin; '''R''' | ''x'' &ne; 0}}}} 上の函数
:<math> f_{-n}(x):= x^{-n}=\frac 1{x^n}=\frac1{f_n(x)}</math>
が定義される。[[#自然数冪|前節の {{mvar|f{{ind|n}}}}]] と同様に、函数 {{math|''f''{{ind|–''n''}}}} は {{mvar|n}} が偶数のとき偶、奇数のとき奇である。

小さい {{mvar|n}} に対して具体的に書けば:
* {{math|1=&minus;''n'' = &minus;1}} のとき、[[逆数|逆数函数]] {{math|1=''f''{{sub|&minus;1}}(''x'') = {{fraction|1|''x''}}.}} これは、対応する函数のグラフが[[双曲線]]となる唯一の冪函数である。

これらの函数もすべて {{math|1=''f''{{sub|&minus;''n''}}(1) = 1}} を満たす。また特に {{math|''m'' < ''n''}} とするとき
* <math>x^{-n} > x^{-m}\quad (0 < x < 1),</math>
* <math>x^{-n} < x^{-m}\quad (1 < x)</math>
が成り立つ。

これら負の整数冪の冪函数はすべて、正の実軸上で[[単調函数|狭義単調]]に {{math|''x'' → +0}} の極限となる {{math|+∞}} から {{math|''x'' → +∞}} の極限となる {{math|0}} まで減少する。これらのグラフはすべて {{math|1=''x'' = 0}} と {{math|1=''y'' = 0}} の二つの直線を[[漸近線]]に持つ。負の実軸上では、偶数冪ならば単調増大、奇数冪ならば単調減少の区別が生じる。

== 有理数冪 ==
{{main|冪根}}
[[File:Racine nieme.svg|thumb|right|冪指数がそれぞれ {{nowrap|1/2 (青)}}, {{nowrap|1/3 (赤)}} の冪函数]]
任意の非零自然数 {{mvar|n}} に対して、
* {{mvar|n}} が偶数のときは {{math|''f{{ind|n}}'': [0, +∞) → [0, +∞)}} と見て、
* {{mvar|n}} が奇数のときは {{math|''f{{ind|n}}'': ℝ → ℝ}} と見て、
函数 {{mvar|f{{ind|n}}}} は[[全単射]]である。従ってその[[逆函数]]が存在するが、{{mvar|f{{ind|n}}}} の逆函数は {{mvar|n}}-乗根函数といい、やはりこれも冪函数として
: <math>f_n^{-1}(x):=\sqrt[n]{x} = x^{1/n} =: f_{1/n}(x)</math>
なる形に書くことができる。{{math|''x'' → +∞}} の極限で値は {{math|+∞}} となるが、グラフは横軸に平行に近づく。直交座標系にグラフを書けば {{math|''f''{{ind|1/''n''}}}} は、直線 {{math|1=''y'' = ''x''}} に関して、{{mvar|f{{ind|n}}}} と（必要ならば正の実軸上の函数に制限して）対称である。

== 実数冪 ==
[[File:Puissance reelle.svg|thumb|right|冪指数がそれぞれ {{nowrap|-0,5 (赤)}}, {{nowrap|0 (黒)}}, {{nowrap|0,6 (緑)}}, {{nowrap|1 (青)}}, {{nowrap|1,7 (紫)}} の冪函数]]
[[指数函数]]と[[自然対数|対数函数]]が既知ならば、それらを用いて冪函数を任意の実数を冪指数とするものへ一般化することができる。{{mvar|x}} は真に正の値をとるものとすれば、函数 {{mvar|f{{ind|a}}}} は
: <math>f_a(x)=x^a := e^{a\ln(x)}</math>
で定義される。{{mvar|a}} の値によっては、既にみたように {{math|1=''x'' = 0}} や {{math|'''R'''*}}、{{math|'''R'''}} 全体などへ[[定義域]]を拡張することができる。あるいは {{mvar|a}} の値によって {{math|1=''x'' = 0}} でも微分できるかどうかが異なる。また冪函数の増減の仕方は {{mvar|a}} の符号で決まる。函数の[[凸函数|凸性]]は二階導函数の符号に関係するが、したがって今の場合だと冪函数の凸性は {{math|''a''(''a'' &minus;1)}} の符号で決まる。

== 性質 ==
=== 導函数と原始函数 ===
冪函数は区間 {{math|(0, +∞)}} 上で常に微分可能で、その導函数は 
: <math> f_a'(x)=ax^{a-1}</math>
によって与えられる。従って、冪指数が {{math|&minus;1}} でなければ、同じ区間上で常に原始函数が存在して、その一つが
:<math>F_a(x):=\frac{x^{a+1}}{a+1}</math>
で与えられる。{{math|1=''a'' = &minus;1}} のときは、[[自然対数]]が原始函数として生じる。

=== 増大度の比較 ===
{{main|{{仮リンク|増大度の比較定理|fr|Théorème des croissances comparées}}}}
[[対数函数]]、底 {{math|''b'' > 1}} の[[指数函数]]および {{math|''a'' > 0}} に対する冪函数は、何れも {{math|''x'' → +∞}} の極限で {{math|+∞}} へ発散する。従って、それらに対してそれぞれの「強さ」を定義して増大度を比較することができる。すなわち
; 命題 (増大度の比較)
: {{math|+∞}} において、指数函数は任意の冪函数「よりも強く」、同じく任意の冪函数は対数函数「より強い」: <math display="block">\lim_{x\to +\infty} \frac{b^x}{x^a} = +\infty,\quad\lim_{x\to +\infty} \frac{\log_b(x)}{x^a}=0.</math>

=== 無限小とヘルダー連続 ===
{{seealso|ヘルダー条件}}
正の数 {{mvar|a}} に対して {{math|1=lim{{sub|''x''→0}}''f{{ind|a}}''(''x'') = 0}} である。他の函数とこの極限の収束度を比較しよう。函数 {{mvar|f}} が位数 {{mvar|n}} の[[無限小]]であるとは、{{math|{{fraction|''f''(''x'')|''x{{exp|n}}''}}}} が {{math|1=''x'' = 0}} を含む十分小さな開区間上で有界なることとする<ref>[[Jacqueline Lelong-Ferrand]] et [[Jean-Marie Arnaudiès]], ''Cours de mathématiques, T2'', [[Éditions Bordas|Bordas]], Paris, 1977, {{p.|147}}.</ref>{{efn|また、{{citation|first=Paul Émile|last=Appell|author-link=Paul Appell}}{{full|date=2016年3月}} は {{math|''f''}} が位数 {{math|''a''}} の無限小とは {{mvar|x}} が 0 に近づくとき <math display="inline">A < \bigl|\frac{f(x)}{x^a}\bigr| < B</math> なることとする。あるいはまた、より狭く、{{math|''f''}} が位数 {{math|''a''}} の無限小であるとは {{mvar|x}} が 0 に近づくとき <math display="inline">\frac{f(x)}{x^a}</math> が 0 でも無限大でもない極限を持つこととする<ref>{{citation|first=Evgeny |last=Chikine |title=Mathématiques supérieures, pour ingénieurs et polytechniciens|publisher= De Boeck |year=1993}}</ref>}}.

函数 {{mvar|f}} が区間 {{mvar|I}} 上で [[ヘルダー条件|{{mvar|α}}-ヘルダー連続]]とは、実数 {{mvar|M}} が存在して
: <math>|f(x) - f(y)|\le M|x - y|^a\quad (\forall x,y\in I)</math>
とできるときに言う。一般に、{{mvar|a}} は {{math|0 < ''a'' &le; 1}} で考えるものとする（{{math|''a'' > 1}} ならば {{mvar|f}} は {{mvar|I}} 上で定数ということになってしまう）。

冪指数 {{math|''a'' (0 < ''a'' ≤ 1)}} の冪函数はもっとも簡単な {{mvar|a}}-ヘルダー連続函数となる。実際、実数{{math|''x'' ≥ ''y'' ≥ 0}} に対して
: <math>0\le x^a-y^a \le(x-y)^a</math>
が成り立つ。

=== 級数展開 ===
{{main|二項級数}}
冪函数 {{mvar|f{{ind|a}}}} は {{math|''x''{{ind|0}}}} の近傍で[[冪級数]]
: <math>(x_0+x)^a =\sum_{n=0}^{+{\infty}}{{a \choose n}\, x_0^{a-n}x^n}</math>
に展開できる。ただし、
:<math>{a \choose n} := \frac{a(a-1)(a-2)\cdots (a-n+1)}{n!} </math> et <math>{a \choose 0} := 1 </math>
は[[二項係数|一般二項係数]]である。

{{mvar|a}} が自然数ならば、上記の和は有限項で止まり、[[二項定理]]となることに注意する（特にその場合には、収束半径は無限大である）。さもなくば和は無限項を含み、収束半径 {{math|''x''{{ind|0}}}} である。

== 一般化 ==
=== 複素変数冪函数 ===
複素変数を考える場合、任意の自然数 {{mvar|n}} に対してはガウス平面 {{math|'''C'''}} 上の函数 {{math|''z'' {{mapsto}} ''z{{exp|n}}''}} が定義できる。自然数冪函数の全体は {{math|'''C'''}} 上の[[多項式函数]]の構成や[[正則函数]]の冪級数展開に利用される。また負の整数 {{math|&minus;''n''}} に対しても、非零複素数の集合 {{math|1='''C'''* = '''C''' {{setminus}} {{mset|0}} = {{mset|''z'' &isin; '''C''' | ''z'' &ne; 0}}}} 上の函数 {{math|''z'' {{mapsto}} ''z''{{exp|&minus;''n''}}}} が定まる。

しかし {{mvar|a}} が実または複素数のとき、{{math|'''C'''*}} 上で一意な冪函数 {{math|''z{{exp|a}}''}} を定義することはできない。実際、そのようなものを定義するには、定義域を {{math|'''C'''*}} の開集合であって、その上で[[複素対数函数]] {{mvar|L}} が定まるようなものへ制限する必要がある。そしてそのような開集合上で、冪函数は 
: <math>f_a(z)=z^a :=\exp(aL(z))</math>
と定義される正則函数となる。

== 注 ==
=== 注釈 ===
{{notelist}}
=== 出典 ===
{{reflist}}

== 関連項目 ==
{{Portal|数学}}
* [[切断冪関数]]
== 外部リンク ==
* {{MathWorld|urlname=Power|title=Power}}
* {{PlanetMath|urlname=PowerFunction|title=Power Function}}
* {{SpringerEOM|urlname=Power_function|title=Power function}}

{{DEFAULTSORT:へきかんすう}}
[[Category:実解析]]
[[Category:関数の種類]]
[[Category:数学に関する記事]]