円周群のソースを表示

{{出典の明記|date=2017年9月}}
{{Lie groups |Other}}
[[数学]]における'''円周群'''（えんしゅうぐん、{{lang-en-short|''circle group''}}; 円群）は[[複素数の絶対値|絶対値]] {{math|1}} の[[複素数]]（単位複素数{{efn|"a '''unit complex number''' is a [[complex number]] of [[unit number|unit]] [[absolute value]]"{{sfn|James|James|1992|p= {{google books quote|id=UyIfgBIwLMQC|text=unit complex number|pg=PA436|436}}}}}}）全体（つまり[[複素数平面]]上の[[単位円]]）<math display="block">\mathbb T = \{ z \in \mathbb C : |z| = 1 \}</math> の成す[[乗法群]] {{math|('''T''', ×)}}（ふつうはこれを単に、乗法群 {{mathbf|T}} と呼ぶ）を言う。円周群 {{mathbf|T}} は、非零複素数全体の成す乗法群 {{math|'''C'''{{sup|×}}}} の[[部分群]]であり、{{math|'''C'''{{sup|×}}}} が[[アーベル群]]であるから、{{mathbf|T}} もそうである。円周群は {{math|1 × 1}} 複素係数[[ユニタリ行列]]全体の成す群 {{math|'''U'''(1)}} と見ることもできて、これは複素数平面に原点を中心とする回転として作用する。円周群は角 {{mvar|θ}} による媒介変数表示が可能で、写像 <math display="block">\theta\mapsto z = e^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta</math> は円周群に対する[[指数写像 (リー理論)|指数写像]]となる。

円周群は[[ポントリャーギン双対性]]において中心的な役割を果たし、あるいは[[リー群論]]においても重要である。

円周群 {{mathbf|T}} の回転群としての解釈は、標準位相に関して円周群が一次元[[トーラス]]に位相群として同型であるという事実に発する。より一般に、{{mathbf|T}} の {{mvar|n}}-重[[群の直積|直積群]] {{math|'''T'''{{exp|n}}}} は幾何学的に {{mvar|n}}-次元トーラスである。

== 位相構造 ==
円周群は単に抽象代数的対象であるだけでなく、複素数平面の[[相対位相|部分空間]]としての{{ill2|自然な位相|en|natural topology}}を持つ。乗法および反転が {{math|'''C'''{{sup|×}}}} 上の連続写像となることから、円周群は[[位相群]]の構造を持つ。さらに、単位円は複素数平面の[[閉集合]]であるから、円周群は位相群としての {{math|'''C'''{{sup|×}}}} の閉部分群となる。

もっと言えば、円周群は一次元実[[多様体]]で、乗法及び反転は円周群上の[[解析函数|実解析的写像]]となるから、円周群は[[リー群]]の実例としての{{ill2|一径数群|en|one-parameter group}}の構造を持つ。実はこれは、[[同型を除いて]]唯一の一次元[[コンパクト群|コンパクト]][[連結空間|連結]]リー群である。さらに、任意の {{mvar|n}}-次元コンパクト連結可換リー群は {{math|'''T'''{{exp|''n''}}}} に同型となる。

== 位相群の同型 ==
円周群は数学的に様々な形でその姿を明らかにする。よく知られた形のうちのいくつかを以下に挙げよう。特に知るべきは位相群の同型 <math display="block">
  \mathbb{T} \cong \mathbb{U}(1) \cong \mathbb{R/Z} \cong \operatorname{SO}(2)
</math> である。斜線 {{math|/}} は[[剰余群]]を表している。

{{math|1 × 1}} [[ユニタリ行列]]全体の成す集合が円周群に一致することは明らかである&mdash;つまりこの場合のユニタリ条件は、その複素数の絶対値が {{math|1}} であるという条件に同値。したがって、円周群は一次の[[ユニタリ群]]に自然同型である。

[[指数函数]]（[[純虚指数函数]]）は実数の<u>加法</u>群 {{mathbf|R}} から円周群 {{mathbf|T}} への[[群準同型]] {{math|exp: '''R''' → '''T'''}} <math display="block">\theta \mapsto e^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta</math> を与える。最後の等号は[[オイラーの公式]]である（あるいは[[複素指数函数]]を参照）。この実数 {{mvar|θ}} は単位円上で正の実軸から反時計回りに測った[[弧度法]]による角度に対応するものである。単位複素数同士の乗法は角度の和になるという事実: <math display="block">e^{i\theta_1}e^{i\theta_2} = e^{i(\theta_1+\theta_2)}</math> により、上記の群準同型写像は同相である。またこの指数写像は明らかに {{mathbf|R}} から {{mathbf|T}} への[[全射]]となるが、[[単射]]でなく、準同型の[[核 (代数学)|核]]は {{math|2π}} の[[整数]]倍全体の成す集合となるから、[[第一同型定理]]により <math display="block">\mathbb{T} \cong \mathbb{R}/2\pi\mathbb{Z}</math> を得る。角度にスケール変換を施せば {{math|'''T''' &cong; '''R'''/'''Z'''}} も同様に言える。

複素数は {{math|2 × 2}} 実[[正方行列]]としても実現できる（[[複素数]]の項参照）が、そのとき単位複素数は{{nowrap|[[行列式]] {{math|1}}}} の[[直交行列]]に対応する。具体的に書けば <math display="block"> e^{i\theta} \longleftrightarrow \begin{pmatrix}
\cos \theta & -\sin \theta \\
\sin \theta & \cos \theta \\
\end{pmatrix}</math> と対応する。したがって、円周群は二次の[[特殊直交群]] {{math|''SO''(2)}} に同型である。この同型を幾何学的に解釈すれば、単位複素数による乗法は複素数平面上の通常 (proper) の回転を与え、またそのような回転はこの形に書けるということを表している。

== 性質 ==
次元が零より大きい任意のコンパクトリー群 {{mvar|G}} は円周群に同型な[[部分群]]を含む。これは対称性の言葉で言えば、連続的に作用するコンパクト対称変換群は、一径数円周群の作用を含むことが期待できるということを意味する。

円周群はたくさんの[[部分群]]を持つが、真の閉部分群は [[1の冪根|{{math|1}} の冪根]]からなる部分群に限られる。すなわち、各正整数 {{mvar|n}} に対する {{math|1}} の {{mvar|n}}-乗根全体の成す集合は位数 {{mvar|n}} の[[巡回群]]となり、そのような部分群は同型を除いて一意に決まる。

== 表現 ==
円周群の[[群の表現|表現]]は容易に記述できる。それはアーベル群の[[既約表現|既約]][[複素数|複素]]表現が必ず一次元であるという[[シューアの補題]]から得られるものである。円周群はコンパクトであるから、任意の表現 {{math|''ρ'': '''T''' → ''GL''(1, '''C''') ≅ '''C'''{{sup|×}}}} は {{math|'''U'''(1) ≅ '''T'''}} に値を取らなければならない。したがって円周群の既約表現とは単に、円周群上の位相群の[[自己準同型]]のことに他ならない。実はそのような準同型は <math display="block">\varphi_n(e^{i\theta}) = e^{in\theta} \quad(n\in\mathbb{Z})</math> の形であり、これらの表現は全て同値でない。また表現 {{math|''φ''{{sub|−''n''}}}} は {{mvar|φ{{sub|n}}}} の{{ill2|共軛表現|en|conjugate representation}}である（<math display="inline">\varphi_{-n} = \overline{\varphi}_n</math>）。 これらの表現はちょうど円周群上の[[指標 (数学)|指標]]であり、したがって明らかに {{mathbf|T}} の[[指標群]]は {{math|''φ''{{sub|1}}}} の生成する[[無限巡回群]]である: <math display="block">\operatorname{Hom}(\mathbb{T},\mathbb{T}) \cong \mathbb{Z}.</math>

円周群の既約[[実数|実]]表現は[[自明表現]]（これは一次元）と、回転
:<math>\rho_n(e^{i\theta}) = \begin{pmatrix}
\cos n\theta & -\sin n\theta \\
\sin n\theta & \cos n\theta
\end{pmatrix}\in SO(2)\quad (n\in\mathbb{Z}^{+})</math>
で尽くされる。ここで、{{mvar|n}} を正整数としているのは、{{math|''ρ''{{sub|&minus;''n''}}}} は {{mvar|ρ{{sub|n}}}} と同値だからである。

== 抽象群構造 ==
本節では位相構造を考えない単に代数的な群としての円周群の構造について扱う。

円周群 {{mathbf|'''T'''}} は[[可除群]]である。その[[ねじれ部分群]]は任意の正整数に亙る {{math|1}} の冪根全体の成す集合として与えられ {{mathbf|Q/Z}} に同型である。[[可除群#可除群の構造定理|可除群の構造定理]]と、[[選択公理]]を用いれば、{{mathbf|T}} が {{mathbf|Q/Z}} と適当な数の {{mathbf|Q}} のコピーとの[[アーベル群の直和|直和]]に同型となることが分かる{{citation needed|date=April 2014}}。このときの {{mathbf|Q}} のコピーの数は（直和群の濃度が正しくなるためには）[[連続体濃度]] {{math|{{unicode|𝖈}}}} でなければならないが、{{mathbf|Q}} の連続体濃度 {{math|{{unicode|𝖈}}}} 個のコピーの直和は {{mathbf|R}} に同型（{{mathbf|R}} が {{mathbf|Q}} 上の {{math|{{unicode|𝖈}}}}-次元[[ベクトル空間]]であるのと同様）なのだから、代数的な群の同型 <math display="block">
  \mathbb{T} \cong \mathbb{R} \oplus (\mathbb{Q/Z})
</math> を得る。同様にして、同型 <math display="block">
  \mathbb{C}^\times \cong \mathbb{R} \oplus (\mathbb{Q/Z})
</math> も証明できる（{{math|'''C'''{{sup|×}}}} もまた加除アーベル群で、そのねじれ部分群は {{mathbf|T}} のねじれ部分群と同一であることによる）。

== 関連項目 ==
{{Portal|数学}}
* {{ill2|円周上の同相の回転数|en|Rotation number}}
* [[トーラス]]
* {{ill2|一径数部分群|en|One-parameter subgroup}}
* [[ユニタリ群]]
* [[直交群]]
* {{ill2|単位円上の有理点群|en|Group of rational points on the unit circle}}

== 注 ==
=== 注釈 ===
{{notelist}}
=== 出典 ===
{{reflist}}

== 参考文献 ==
* {{Citation |last=James |first=Robert C. |last2=James |first2=Glenn |year=1992 |title=Mathematics Dictionary |edition=Fifth |publisher=Chapman & Hall |publication-place= |page= |url=https://books.google.com/books?id=UyIfgBIwLMQC |accessdate= }}

== 関連文献 ==
* [[Hua Luogeng]] (1981) ''Starting with the unit circle'', [[Springer Verlag]], {{ISBN|0-387-90589-8}} .

== 外部リンク ==
* {{nlab|urlname=circle+group|title=circle group}}
* {{ProofWiki|urlname=Definition:Circle_Group|title=Definition:Circle Group}}

{{DEFAULTSORT:えんしゆうくん}}
[[Category:群論]]
[[Category:位相群]]
[[Category:リー群]]
[[Category:数学に関する記事]]