二項定理のソースを表示

[[Image:Pascal's triangle 5.svg|right|thumb|200px|[[パスカルの三角形]]の構成要素として[[二項係数]]が現れる。各要素はその上にある二つの要素の和に等しい。]]
[[初等代数学]]における'''二項定理'''（にこうていり、{{lang-en-short|''binomial theorem''}}）または'''二項展開''' (''binomial expansion'') は[[二項式]]の[[冪]]の[[多項式の展開|代数的な展開]]を記述するものである。定理によれば、冪 {{math|(''x'' + ''y''){{exp|''n''}}}} は {{mvar|a&thinsp;x{{exp|b}}&thinsp;y{{exp|c}}}} の形の項の[[総和|和]]に展開できる。ただし、冪指数 {{mvar|b, c}} は {{math|''b'' + ''c'' {{=}} ''n''}} を満たす[[非負整数]]で、各項の[[係数]] {{math|''a''}} は {{math|''n''}} と {{math|''b''}} に依存して決まる特定の[[正整数]]である。例えば

: <math>(x+y)^2 = x^2 + 2xy + y^2,</math>
: <math>(x+y)^3 = x^3 + 3x^2y + 3xy^2 + y^3,</math>
: <math>(x+y)^4 = x^4 + 4 x^3y + 6 x^2 y^2 + 4 x y^3 + y^4.</math>

{{mvar|a&thinsp;x{{exp|b}}&thinsp;y{{exp|c}}}} の項の係数 {{math|''a''}} は[[二項係数]] <math>\tbinom{n}{b} (=\tbinom{n}{c})</math> とも呼ばれる。これら係数を {{math|''n''}} および {{math|''b''}} を動かして並べることで[[パスカルの三角形]]を描くことができる。これらの数は[[組合せ論]]においても現れ、<math>\tbinom{n}{b}</math> は[[有限集合| {{mvar|n}}-元集合]]から {{mvar|b}} 個の相異なる[[元 (数学)|元]]を選ぶ[[組合せ (数学)|組合せ]]の総数を与える。

== 歴史 ==
特別の場合の二項定理は古代より知られていた。紀元前4世紀[[ギリシアの数学|ギリシャの数学者]][[エウクレイデス]]は冪指数 {{math|2}} に対する特別の場合の二項定理に言及している<ref name=wolfram>{{MathWorld|title=Binomial Theorem|urlname=BinomialTheorem}}</ref><ref name="Coolidge">{{cite journal|url=http://www.jstor.org/pss/2305028|title=The Story of the Binomial Theorem|first=J. L.|last=Coolidge|journal=The American Mathematical Monthly|volume=56|issue=3|date=1949|pp=147–157}}</ref>。三次の場合の二項定理が6世紀のインドで知られていたことは証拠がある<ref name=wolfram/><ref name="Coolidge"/>。

{{mvar|n}} 個の対象から重複無く {{mvar|k}} 個を選ぶ総数を表す組合せ論的量としての二項係数は、古代ヒンドゥーに着目されていた。この組合せ論的問題に対する言及として知られる最も古いものは、ヒンドゥーの詩人{{仮リンク|ピンガラ|en|Pingala}} (c. 200 B.C.) による ''Chandaḥśāstra'' で、それにはその解法も含まれている<ref name=Chinese>{{cite book|title=A history of Chinese mathematics|author1=Jean-Claude Martzloff|author2=S.S. Wilson|author3=J. Gernet|author4=J. Dhombres|publisher=Springer|year=1987}}</ref>{{rp|230}}。紀元後10世紀に評者{{仮リンク|ハラーユダ|en|Halayudha}}はこの解法を今日[[パスカルの三角形]]と呼ばれるものを用いて説明した<ref name=Chinese/>。6世紀ごろのヒンドゥーの数学者には、この数が {{math|{{fraction|''n''!|(''n''&minus;''k'')!&thinsp;''k''!}}}} なる商で表されることがおそらく知られていた<ref name="Biggs">{{cite journal|last=Biggs|first=N. L.|title=The roots of combinatorics|journal=Historia Math.|volume=6|date=1979|issue=2|pp=109-136|doi=10.1016/0315-0860(79)90074-0}}</ref>し、明らかにこの規則についての言及を12世紀に[[バースカラ2世]]の表した文書 ''Lilavati'' に見つけることができる<ref name="Biggs"/>。

そういった意味での二項定理は、二項係数の三角形パターンについて記述した11世紀[[アラビア数学|アラビアの数学者]]{{仮リンク|アル゠カラジ|en|Al-Karaji}}の業績にも見つけることができる<ref name=Karaji>{{MacTutor|id=Al-Karaji|title=Abu Bekr ibn Muhammad ibn al-Husayn Al-Karaji}}</ref>。アル゠カラジはまた、原始的な形の[[数学的帰納法]]をもちいて二項定理およびパスカルの三角形に関する数学的証明も与えている<ref name=Karaji/>。ペルシアの詩人で数学者の[[ウマル・ハイヤーム|オマール・カヤーム]]は、その数学的業績のほとんどは失われてしまったが、恐らく高階の二項定理についてよく知っていた<ref name="Coolidge"/>。低次の二項展開は13世紀中国の[[楊輝]]<ref>{{Cite web
| last = Landau
| first = James A.
| title = <nowiki>Historia Matematica Mailing List Archive: Re: [HM] Pascal's Triangle</nowiki>
| work = Archives of Historia Matematica
| format = mailing list email
| accessdate = 2007-04-13
| date = 1999-05-08
| url = http://archives.math.utk.edu/hypermail/historia/may99/0073.html
}}</ref>や[[朱世傑]]<ref name="Coolidge"/>の数学的業績にもみられる。楊輝は遥か旧く11世紀の{{仮リンク|賈憲|en|Jia Xian}}の書の方法に従った（それらもまた今日では失われてしまったが）<ref name=Chinese/>{{rp|142}}。

1544年に{{仮リンク|ミハエル・シュティーフェル|en|Michael Stifel}}は「二項係数」("binomial coefficient") の語を導入して、「パスカルの三角形」を通じて {{math|(1 + ''a''){{exp|''n''}}}} を {{math|(1 + ''a''){{exp|''n''&minus;1}}}} で表すためにそれらをどのように使うのかを示した<ref name=Kline>{{cite book|title=History of mathematical thought|first=Morris|last=Kline|page=273|publisher=Oxford University Press|year=1972}}</ref>。[[ブレーズ・パスカル]]は、今日彼の名を冠して呼ばれる三角形を{{仮リンク|treatise|en|treatise|label=論文}} ''Traité du triangle arithmétique'' (1653) において包括的に研究したが、これら数の規則性はルネッサンス後期ヨーロッパの数学者たち（例えばシュティーフェル、[[ニコロ・フォンタナ・タルタリア|タルタリア]]、[[シモン・ステヴィン]]など）には既に知られていた<ref name=Kline/>。

[[アイザック・ニュートン]]は任意の有理数冪に対して成り立つ一般化された二項定理を示したと考えられている<ref>{{cite book|title=Elements of the History of Mathematics Paperback|date= 18 November 1998|first= N.|last=Bourbaki|others= J. Meldrum (Translator)|isbn=978-3540647676}}</ref><ref name=Kline/>。

== 定理の主張 ==
定理によれば、{{math|''x'' + ''y''}} の任意の冪を
{{numblk|:|<math>(x+y)^n = {n \choose 0}x^n y^0 + {n \choose 1}x^{n-1}y^1 + {n \choose 2}x^{n-2}y^2 + \cdots + {n \choose n-1}x^1 y^{n-1} + {n \choose n}x^0 y^n</math>|{{EquationRef|1}}}}
の形の和に展開することができる（冪指数が零となるときは対応する冪は {{math|1}} に等しいものとし、その項の因子としてはしばしば省略する）。ここに {{math|({{su|p=''n''|b=''k''}})}} は[[二項係数]]と呼ばれる特定の正整数である。この等式はしばしば'''{{仮リンク|二項公式|de|Binomische Formel}}'''あるいは'''二項（恒）等式'''とも呼ばれる。{{仮リンク|総和記法|en|Capital-sigma notation|label=総和の {{math|&sum;}}-記法}}を用いれば
: <math>(x+y)^n = \sum_{k=0}^n {n \choose k}x^{n-k}y^k = \sum_{k=0}^n {n \choose k}x^{k}y^{n-k}
</math>
と書ける。最後の式はもともとの式における {{mvar|x}} と {{mvar|y}} との対称性と、定理の等式に現れる二項係数の列の対称性により、真ん中の式から得られる。二項公式の簡単版が {{mvar|y}} に {{mvar|1}} を[[代入]]して[[アリティ|一変数]]化することで得られる。つまり、
: <math>(1+x)^n = {n \choose 0}x^0 + {n \choose 1}x^1 + {n \choose 2}x^2 + \cdots + {n \choose {n-1}}x^{n-1} + {n \choose n}x^n = \sum_{k=0}^n {n \choose k}x^k.</math>

;注
:* この定理は冪指数 {{mvar|n}} が任意の自然数であるとき、{{mvar|x}} および {{mvar|y}} が任意の[[単位的環|単位的]][[可換環]]の元として成り立つ。このとき、項 <math>\tbinom{n}{k} x^{n-k}y^k</math> は環の元の積 {{mvar|x{{exp|n&minus;k}}y{{exp|k}}}} の整数 <math>\tbinom{n}{k}</math> によるスカラー倍である。つまりここでは環を {{math|'''Z'''}}-[[環上の加群|加群]]と見做している。
:* 必ずしも可換でない一般の単位的環においても {{mvar|x}} と {{mvar|y}} が可換である（つまり {{math|''xy'' {{=}} ''yx''}} を満たす）限りにおいて二項定理は成り立つ。
:* {{mvar|x{{exp|n}}}} と {{mvar|y{{exp|n}}}} の項を分けて書けば単位元の存在も仮定しなくてよい:
:*:<math>(x+y)^n = x^n + \left[ \sum_{k=1}^{n-1}\binom{n}{k} x^{n-k}y^{k} \right] + y^n.</math>

定理の主張を、[[多項式列]] {{math|{1, ''x'', ''x''<sup>2</sup>, …} }}は[[二項型多項式列|二項型]]であると述べることもできる。

== 証明 ==
=== 帰納的証明 ===
; {{math|''n'' {{=}} 0}}
:<math>(x+y)^0=1={0 \choose 0}x^0y^0,</math>
; {{math|''n'' {{=}} 1}}
:<math>(x+y)^1= x + y ={1 \choose 0}x^1y^0 + {1 \choose 1}x^0y^1 </math>
が主張を満たすことは明らか。以下 {{mvar|n}} は {{math|1}} 以上の整数として {{mvar|n}} に関する帰納法で示す。

帰納法の仮定により、
: <math>(x+y)^{n+1}=(x+y)~\sum_{k=0}^n {n \choose k} x^{n-k} y^k</math>
が成り立つから、[[分配法則]]によって
: <math>\begin{align}
 (x+y)^{n+1}&=x^{n+1}+x~\sum_{k=1}^n {n \choose k} x^{n-k} y^k 
+y~\sum_{k=0}^{n-1} {n \choose k} x^{n-k} y^k
+ y^{n+1}\\ &=x^{n+1}+\sum_{k=1}^n \left\lbrack {n\choose k} + {n\choose {k-1}} \right\rbrack x^{n-k+1} y^k+ y^{n+1}\end{align}</math>
となり、{{仮リンク|パスカルの法則|en|Pascal's rule}}を用いて
:<math>\begin{align}
 (x+y)^{n+1} &=x^{n+1}+\sum_{k=1}^n {{n+1}\choose k}~x^{n-k+1} y^k+y^{n+1}\\
 &=\sum_{k=0}^{n+1} {{n+1}\choose k}~x^{n-k+1} y^k\end{align}</math>
を得る。これは所期の式である<ref name="Démonstration en vidéo">[https://www.youtube.com/watch?v=LeTLSGUDc7o Démonstration par récurrence en vidéo].</ref>。

=== 組合せ論的証明 ===
二項係数 {{math|({{su|p=''n''|b=''k''}})}} が {{mvar|n}}-元集合から得られる {{mvar|k}}-元部分集合の総数であるという組合せ論的性質を用いてより直観的な証明ができる<ref name="démonstration par dénombrement en vidéo">[http://www.youtube.com/watch?v=PfxCvRZQIj0 Binôme de Newton : Démonstration par dénombrement en vidéo]</ref>。展開すべき式を
: <math>(x+y)^n=\underbrace{(x+y)(x+y)\cdots(x+y)}_{n \text{ factors}}</math>
と書く。{{mvar|x}} および {{mvar|y}} をそれぞれ {{mvar|j}} 個および {{mvar|k}} 個選んで掛け合わせれば {{mvar|x{{exp|j}}y{{exp|k}}}} の形の項を生じるが、ここで {{mvar|y}} を選ばないときには {{mvar|x}} を選ぶしかないから {{math|1=''j = n – k''}} である。最終的に {{mvar|k}} 個の {{mvar|y}} を選ぶ方法は {{math|({{su|p=''n''|b=''k''}})}} 通りであるから、{{mvar|n}} 個の {{math|(''x'' + ''y'')}} を掛け合わせたときの単項式 {{math|''x{{exp|n–k}}y{{exp|k}}''}} の係数は {{math|({{su|p=''n''|b=''k''}})}} である。

;注: 等式
:: <math>(X+Y)^n=\sum_{k=0}^n {n \choose k}X^{n-k}Y^k</math>
: において {{mvar|n}} 個の {{mvar|Y}} を区別して {{math|''Y''{{msub|1}}, ''Y''{{msub|2}}, …, ''Y''{{msub|''n''}}}} と考えた場合、対応する式は {{仮リンク|基本対称式|en|Elementary symmetric polynomial|preserve=1}} {{math|''σ{{ind|k}}''}} を用いて
:: <math>\prod_{i=1}^n(X+Y_i)=\sum_{k=0}^n\sigma_k(Y_1,\ldots,Y_n)X^{n-k}</math>
: と書ける。

== 一般化 ==

=== ニュートンの一般化された二項定理 ===
{{main|二項級数}}
1665年ごろ[[アイザック・ニュートン]]は定理を一般化して非整数冪に対する公式（[[二項級数|ニュートンの一般二項定理]]）を得た<ref>https://books.google.co.jp/books?id=jPgQLOnnEbUC&pg=PA29</ref>。この一般化において、有限和は[[無限級数]]で置き換えられなければならない。またこの一般化を行うために二項係数 {{math|({{su|p=''n''|b=''k''}})}} の上の添字 {{mvar|''n''}} を任意の値としなければならないから、二項係数を階乗を用いて表すこともできない。一般化された二項係数を任意の数 {{mvar|r}} に対して
: <math>{r \choose k}=\frac{r\,(r-1) \cdots (r-k+1)}{k!} =\frac{(r)_k}{k!}</math>
で定義する。右辺の {{math|(&bull;){{msub|''k''}}}} は[[ポッホハマー記号]]で、ここでは[[下方階乗]]を表す。このとき {{mvar|x, y}} が {{math|{{abs|''x''}} > {{abs|''y''}}}} なる実数のとき<ref name=convergence group=Notes>これは収束を保証する。{{mvar|r}} によっては、この級数が {{math|{{abs|''x''}} {{=}} {{abs|''y''}}}}のときも収束することがある。</ref>。{{mvar|r}} を任意の[[複素数]]として
{{numblk|:|<math>
\begin{align}
(x+y)^r & =\sum_{k=0}^\infty {r \choose k} x^{r-k} y^k\\
& = x^r + r x^{r-1} y + \frac{r(r-1)}{2!} x^{r-2} y^2 + \frac{r(r-1)(r-2)}{3!} x^{r-3} y^3 + \dotsb
\end{align}</math>|{{EquationRef|2}}}}
が成り立つ。{{mvar|r}} が非負整数のとき、{{math|''k'' > ''r''}} に対する二項係数は零であるから等式 (2) は等式 ({{equationNote|1}}) に特殊化され、非零項は高々 {{math|''r'' + 1}} 個である。{{mvar|r}} がそれ以外の値のときは級数 (2) は（少なくとも {{mvar|x, y}} が非零のとき）無数の非零項を持つ。

これは無限級数を扱っていてそれを{{仮リンク|一般化超幾何函数|en|generalised hypergeometric function}}で表そうとするときに重要である。

{{math|''r'' {{=}} &minus;''s''}} と置けば有用な等式
: <math>\frac{1}{(1-x)^s} = \sum_{k=0}^\infty {s+k-1 \choose k} x^k \equiv \sum_{k=0}^\infty {s+k-1 \choose s-1} x^k</math>
を得る。これをさらに {{math|''s'' {{=}} 1}} と特殊化すれば[[幾何級数]]を得る。

; 注
: 式 ({{equationNote|2}}) は {{mvar|x, y}} が複素数の場合にも一般化することができる。この場合、{{math|{{abs|''x''}} > {{abs|''y''}}}}<ref name=convergence group=Notes/> に加えて、{{mvar|x}} を中心とする半径 {{math|{{abs|''x''}}}} の開円板上で定義された[[複素対数函数|log]]の[[正則函数|正則]]な枝を用いて {{math|''x'' + ''y''}} および {{mvar|x}} の冪を定義しなければならない。
: 式 ({{equationNote|2}}) は {{mvar|x}} および {{mvar|y}} が[[バナッハ代数]]の元であるときも、{{math|''xy'' {{=}} ''yx''}} かつ {{mvar|x}} が可逆で {{math|{{norm|''y''/''x''}} < 1}} である限り成り立つ。

=== 多項定理 ===
{{main|多項定理}}
二項定理を二項より多くの項の和の冪に対して一般化することができる。すなわち
: <math>(x_1 + x_2 + \cdots + x_m)^n
 = \sum_{k_1+k_2+\cdots +k_m = n} {n \choose k_1, k_2, \ldots, k_m}
 x_1^{k_1} x_2^{k_2} \cdots x_m^{k_m}</math>
が成り立つ。ここで和は、非負整数列 {{math|''k''{{ind|1}}, …, ''k''{{ind|''m''}}}} でそれらの総和が {{mvar|n}} に等しいようなもの全体に亙って取る（つまり上記の展開の右辺の式は各項が全次数 {{mvar|n}} の斉次多項式である）。この展開の係数 <math> \tbinom{n}{k_1,\cdots,k_m}</math> は多項係数と呼ばれ。
: <math> {n \choose k_1, k_2, \ldots, k_m}
 = \frac{n!}{k_1!\, k_2! \cdots k_m!}</math>
なる値を持つ。組合せ論的には、多項係数 <math>\tbinom n{k_1,\cdots,k_m}</math> は {{mvar|n}}-元集合を各位数が {{math|''k''<sub>1</sub>, …, ''k''<sub>''m''</sub>}} となるような[[素集合|互いに素]]な部分集合へ[[集合の分割|分割]]する方法の総数を表す。

=== 多重二項定理 ===
二項式の積を扱うために、より次元の高いところでも二項定理はしばしば有用である。二項定理により等式
: <math> (x_{1}+y_{1})^{n_{1}}\dotsm(x_{d}+y_{d})^{n_{d}} = \sum_{k_{1}=0}^{n_{1}}\dotsm\sum_{k_{d}=0}^{n_{d}} \binom{n_{1}}{k_{1}}\, x_{1}^{k_{1}}y_{1}^{n_{1}-k_{1}}\;\dotsc\;\binom{n_{d}}{k_{d}}\, x_{d}^{k_{d}}y_{d}^{n_{d}-k_{d}}</math>
が成り立つ。この式は[[多重指数|多重添字記法]]を用いれば
: <math> (x+y)^\alpha = \sum_{\nu \le \alpha} \binom{\alpha}{\nu} \, x^\nu y^{\alpha - \nu}</math>
とより簡潔に表される。

== 応用 ==

=== 三角函数の多倍角公式 ===
[[複素数]]に対する二項定理と[[ド・モアブルの定理]]を合わせれば、[[正弦函数]]および[[余弦函数]]の多倍角公式が得られる。ド・モアブルの公式によれば 
: <math>\cos(nx)+i\sin(nx) = (\cos x+i\sin x)^n</math>
が成り立つから、二項定理を用いて右辺を展開して実部と虚部を比較すれば {{math|cos(''nx'')}} および {{math|sin(''nx'')}} に対する公式を得る。例えば
: <math>\left(\cos x+i\sin x\right)^2 = \cos^2 x + 2i \cos x \sin x - \sin^2 x</math>
から倍角公式
: <math>\cos(2x) = \cos^2 x - \sin^2 x,\quad \sin(2x) = 2 \cos x \sin x</math>
を得る。同様に
:<math>\left(\cos x+i\sin x\right)^3 = \cos^3 x + 3i \cos^2 x \sin x - 3 \cos x \sin^2 x - i \sin^3 x</math>
から三倍角公式
: <math>\cos(3x) = \cos^3 x - 3 \cos x \sin^2 x,\quad \sin(3x) = 3\cos^2 x \sin x - \sin^3 x</math>
を得る。一般に
:<math>\begin{align}
 \cos(nx) &= \sum_{k\text{: even}} (-1)^{k/2} {n \choose k}\cos^{n-k} x \sin^k x,\\
 \sin(nx) &= \sum_{k\text{: odd}} (-1)^{(k-1)/2} {n \choose k}\cos^{n-k} x \sin^k x
\end{align}</math>
となる。

=== {{mvar|e}} の級数表示 ===
[[ネイピア数]] {{mvar|e}} を極限
: <math>e = \lim_{n\to\infty} \left(1 + \frac{1}{n}\right)^n</math>
で定義するとき、二項定理を用いれば {{mvar|e}} の級数表示を得る。特に
: <math>\textstyle (1 + \frac{1}{n})^n = 1 + {n \choose 1}\frac{1}{n} + {n \choose 2}\frac{1}{n^2} + {n \choose 3}\frac{1}{n^3} + \cdots + {n \choose n}\frac{1}{n^n}</math>
であり、この和の第 {{mvar|k}}-項
: <math>\textstyle {n \choose k}\frac{1}{n^k} = \frac{1}{k!}\cdot\frac{n(n-1)(n-2)\cdots (n-k+1)}{n^k}</math>
は {{math|''n'' → ∞}} のとき後半の分数部分は {{math|1}} に収束するから
: <math>\textstyle \lim_{n\to\infty} {n \choose k}\frac{1}{n^k} = \frac{1}{k!}.</math>
よって {{mvar|e}} は級数として
: <math>e = \frac{1}{0!} + \frac{1}{1!} + \frac{1}{2!} + \frac{1}{3!} + \dotsb</math>
と書ける。

実際、上記の二項展開は {{mvar|n}} に関して[[単調写像|単調増大]]だから、[[単調収束定理]]により上記の無限級数は実際に {{mvar|e}} に等しい。

=== 冪函数の微分 ===
整数 {{mvar|n}} に対する冪函数 {{math|''f''(''x'') {{=}} ''x''{{exp|''n''}}}} の導函数を定義に基づいて求めるとき、二項冪 {{math|(''x'' + ''h''){{exp|''n''}}}} を展開しなければならない。

=== 一般ライプニッツ則 ===
二つの函数の積の高階導函数に対する公式を導くのに、二項定理が記号的に利用される<ref>{{cite book |last=Seely |first=Robert T. |title=Calculus of One and Several Variables |location=Glenview |publisher=Scott, Foresman |year=1973 |isbn=0-673-07779-9 }}</ref>。逆に {{mvar|t}} の函数 {{math|exp((''x'' + ''y'')''t'')}} に一般ライプニッツ則を適用すると二項定理が導かれる。実際 {{math|exp((''x'' + ''y'')''t'') {{=}} exp(''xt'')exp(''yt'')}} を両辺 {{mvar|t}} で {{mvar|n}} 回微分すれば、一般ライプニッツ則により
: <math>(x+y)^n\exp((x+y)t) = \frac{d^n(\exp(xt)\exp(yt))}{dt^n} = \sum_{k=0}^n \binom{n}{k}x^{n-k}\exp(xt)\,y^k\exp(yt)</math>
を得るから、両辺を {{math|exp(''xt'')exp(''yt'')}} で除して所期の式を得る。

== 注 ==
{{reflist|group=Notes}}

== 参考文献 ==
{{reflist}}

== 関連文献 ==
{{refbegin}}
*{{cite journal|last=Bag|first=Amulya Kumar|year=1966|title=Binomial theorem in ancient India|journal=Indian J. History Sci|volume=1|issue=1|pages=68–74}}
*{{cite book|last1=Graham|first1=Ronald|first2=Donald |last2=Knuth|first3= Oren|last3= Patashnik|title=[[Concrete Mathematics]]|publisher=Addison Wesley|year=1994|edition=2nd|pages=153–256|chapter=(5) Binomial Coefficients|isbn=0-201-55802-5|oclc=17649857}}
{{refend}}

== 外部リンク ==
{{wikibooks|Combinatorics|Binomial Theorem|The Binomial Theorem}}
*{{Kotobank|二項定理|2=日本大百科全書(ニッポニカ)}}
*{{MathWorld|title=Binomial Theorem|urlname=BinomialTheorem}}
*{{MathWorld|title=Binomial Series|urlname=BinomialSeries}}
*{{MathWorld|title=Negative Binomial Series|urlname=NegativeBinomialSeries}}
*{{SpringerEOM | title=Binomial series | id=Binomial_series&oldid=17445 | last=Solomentsev | first=E. D. }}
*{{SpringerEOM|id=Newton_binomial|first=E.D.|last= Solomentsev|title=Newton binomial}}
*[http://demonstrations.wolfram.com/BinomialTheorem/ Binomial Theorem] by [[Stephen Wolfram]], and [http://demonstrations.wolfram.com/BinomialTheoremStepByStep/ "Binomial Theorem (Step-by-Step)"] by Bruce Colletti and Jeff Bryant, [[Wolfram Demonstrations Project]], 2007.

{{二項演算}}

{{DEFAULTSORT:にこうていり}}
[[Category:組合せ論]]
[[Category:初等数学]]
[[Category:数学に関する記事]]
[[Category:代数学の定理]]