ダランベール演算子のソースを表示

{{出典の明記|date=2017年7月}}
'''ダランベール演算子''' (ダランベールえんざんし、{{lang-en-short|d'Alembert operator}}) とは、[[物理学]]の[[特殊相対性理論]]、[[電磁気学]]、[[波動]]論で用いられる[[演算子]]（[[作用素]]）であり、[[ラプラス演算子]]を[[ミンコフスキー空間]]に適用したものである。'''ダランベール作用素'''、'''ダランベルシアン''' ('''d'Alembertian''' ) あるいは '''wave operator'''（波動演算子）と呼ばれることもあり、一般に四角い箱のような記号 {{math|□ ({{unicode|&#x29E0;}}{{efn|Unicode: U+29E0. SQUARE WITH CONTOURED OUTLINE (縁取り付き四角形) [その他の数学記号B]}})}} で表される。この名称はフランスの数学者・物理学者[[ジャン・ル・ロン・ダランベール]] (Jean Le Rond d'Alembert) の名に由来する。

==定義==
標準座標系 {{math|(''ct'', ''x'', ''y'', ''z'')}} で表されるミンコフスキー空間において、ダランベール演算子は次の形で定義される。

: <math>
\begin{align}
\Box & := \partial_\mu \partial^\mu = g_{\mu\nu} \partial^\nu \partial^\mu \\
&= \frac{\partial^2}{\partial (ct)^2} - \frac{\partial^2}{\partial x^2} - \frac{\partial^2}{\partial y^2} - \frac{\partial^2}{\partial z^2} \\
& = \frac{1}{c^2}\frac{\partial^2 }{\partial t^2} - \nabla^2 
=\frac{1}{c^2} \frac{\partial^2}{\partial t^2} - \Delta
\end{align}
</math>

ここで <math display="inline">g_{\mu\nu}</math> は[[ミンコフスキー計量]] である。すなわち、<math display="inline">g_{00} = 1</math>, <math display="inline"> g_{11} = g_{22} = g_{33} = -1</math>, その他 <math display="inline">\mu \neq \nu</math> については <math> g_{\mu\nu} = 0</math> の値をとる。{{mvar|μ}} と {{mvar|ν}} は[[アインシュタインの縮約記法]]にしたがう[[総和]]のための添字<!-- summation indices -->であり、{{math2|0, 1, 2, 3}} のいずれかの値をとる。また、{{math|1=&nabla;<sup>2</sup> = &Delta;}} はラプラス演算子である。

文献によっては負の[[計量符号数]] {{math|[− + + +]}} すなわち <math display="inline">\eta_{00} = -1,\; \eta_{11} = \eta_{22} = \eta_{33} = 1</math> を用いている場合もある。この場合、符号を反転させて

:<math>\Box = \Delta - \frac{1}{c^2} \frac{\partial^2 }{\partial t^2}</math>

とする。また、[[光速度]] {{mvar|c}} を {{math|1}} とするような[[自然単位系|単位系]]を用いる場合も多く、その場合は、

:<math>
\frac{1 }{c^2} \frac{\partial^2}{\partial t^2}
\longrightarrow \frac{\partial^2}{\partial t^2}
</math> 

という置き換えをする。さらに[[波動方程式]]などにおいて、光速度 {{mvar|c}} の部分を一般の波の伝播速度 {{mvar|s}} などに置き換える場合もある。

[[ローレンツ変換]]はミンコフスキー計量を不変に保つ。ゆえに、ダランベール演算子は{{ill2|ローレンツスカラー|en|Lorentz scalar}}である。したがって、先に用いた座標表現は、あらゆる[[慣性系]]における標準座標に対し有効である。

== 別の記法 ==
ダランベール演算子の記法は複数存在している。最も一般的なのは、記号 <math display="inline">\Box</math> を用いた表記である。箱形の四つ角が時空の四次元を表している。<math display="inline">\Box^2</math> として、自乗項によるスカラー的特性（[[内積|スカラー積]]）を強調することもある（[[ラプラス演算子]]を {{math|&Delta;}} でなく {{math|&nabla;<sup>2</sup>}} で表現する場合に似ている）。この記号は[[ナブラ]]記号 (&nabla;; nabla) の四 (quadri-) 次元版として '''quabla''' と呼ばれることもある。ラプラス演算子の三角形記法にならって {{math|&Delta;<sub>M</sub>}} が用いられることもある。

平らな標準座標におけるダランベール演算子を記述するもう一つの方法として、<math display="inline">\partial^2</math> を用いたものがある。この記法は[[場の量子論]]で広く用いられている。場の量子論では、多くの場合偏微分記号に添字が付されている。二乗の偏微分記号において添字が無い場合、それはダランベール演算子の存在を伝えている。

記号 <math display="inline">\Box</math> は、四次元におけるレヴィ=チヴィタの[[共変微分]]を表すのに用いられることもある。この場合、記号 {{math|&nabla;}} は空間微分を表すのに用いられるが[[座標チャート]]に依存する。

== 応用 ==
;通常の波動方程式
小規模な振動に関する[[波動方程式]]は、ダランベール演算子を用いて、次のように表される。

:<math> \Box_{s} u (\mathbf{x},t) := \frac{1}{s^2} \frac{\partial^2}{\partial t^2}u - \nabla^2u = 0, </math>

ここで {{math|''u''('''x''', ''t'')}} は[[変位]]であり、{{mvar|s}} は伝播の速度を表す。

;電磁場の波動方程式
真空における[[電磁場]]の伝播を記述する波動方程式は、ダランベール演算子を用いて、次のように表される。

:<math>\Box A^{\mu}(\mathbf{x},t) = 0</math>

ここで {{mvar|A<sub>&mu;</sub>}} は[[ベクトルポテンシャル]] である。

;クライン–ゴルドン方程式
ダランベール演算子を用いて、[[クライン–ゴルドン方程式]]は次のように書き表せる。

:<math>(\Box + \mu^2)\psi = 0.</math>

ここで、{{mvar|&mu;}} は

:<math>\mu =\frac{mc}{\hbar}</math>

で定義される定数である。

== グリーン関数 ==
ダランベール演算子に関する[[グリーン関数]] {{math|''G''(''x'' − ''x''&prime;)}} は、次の方程式を満たすものとして定義される。

:<math>
\begin{align}
\Box G(x-x')& = \delta(\mathbf{x}-\mathbf{x}') \delta(ct-ct') \\
& =: \delta^{(4)} (x-x').
\end{align}
</math>

ここで {{math|&delta;<sup>(4)</sup>(''x'' − ''x''&prime;)}} はミンコフスキー空間での[[ディラックのデルタ関数]]であり、{{math|1=''x'' = (''ct'', '''x''')}} と {{math|1=''x''&prime; = (''ct''&prime;, '''x'''&prime;)}} はミンコフスキー空間における2つの点である。

上式を満たすグリーン関数として、'''遅延グリーン関数'''

:<math>
\begin{align}
D_{\text{ret}}(x-x') & = \frac{1}{4\pi |\mathbf{x} - \mathbf{x}' |}
\delta (ct- ct' - |\mathbf{x} - \mathbf{x} |) \\
& = \frac{1}{(2\pi)^4} \int_{-\infty}^{\infty}
\frac{ e^{ik(x-x')} }{\mathbf{k}^2 - (k_0 + i \epsilon)^2} d^{4}k
\end{align}
</math>

並びに、'''先進グリーン関数'''

:<math>
\begin{align}
D_{\text{adv}}(x-x') & = \frac{1}{4\pi |\mathbf{x} - \mathbf{x}' |}
\delta (ct- ct' + |\mathbf{x} - \mathbf{x} |) \\
& = \frac{1}{(2\pi)^4} \int_{-\infty}^{\infty}
\frac{e^{ik(x-x')} }{\mathbf{k}^2 - (k_0 - i \epsilon)^2} d^{4}k
\end{align}
</math>

をとることができる。但し、

:<math>
\begin{align}k(x-x')&:=\mathbf{k} \cdot (\mathbf{x}-\mathbf{x}')- k_0(x_0 -x_0 ')\\&
=\mathbf{k} \cdot (\mathbf{x}-\mathbf{x}')- ck_0(t -t ')\end{align}
</math>

であるものとする。

遅延グリーン関数 {{math|''D''<sub>ret</sub>}} は、

:<math> t-t'= \frac{1}{c} |\mathbf{x}-\mathbf{x}'| \geq 0</math>

以外では 0 の値を、先進グリーン関数 {{math|''D''<sub>adv</sub>}} は、

:<math> t-t'= -\frac{1}{c} |\mathbf{x}-\mathbf{x}'| \leq 0</math>

以外では 0 の値をとる性質を有する。

==符号位置==
{|class="wikitable" style="text-align: center;"
!記号!![[Unicode]]!![[JIS X 0213]]!![[文字参照]]!!名称
{{CharCode|10720|29E0|-|SQUARE WITH CONTOURED OUTLINE}}
|}

== 注釈 ==
{{notelist}}

== 参考文献 ==
{{reflist}}

== 関連項目 ==
*[[ナブラ]] {{math|∇}}
**[[ラプラス演算子]] {{math|∆ {{=}} ∇<sup>2</sup>}}
*[[波動方程式]]
*[[クライン–ゴルドン方程式]]: {{math|(□ + ''m''{{sup|2}})''&phi;'' {{=}} 0}}
*{{仮リンク|相対論的熱伝導|en|Relativistic heat conduction}}

== 外部リンク ==
* {{MathWorld | urlname=dAlembertian | title=d'Alembertian}}
* {{PlanetMath | urlname=DAlembertian | title=d'Alembertian}}
* {{SpringerEOM | urlname=D'Alembert_operator | title=D'Alembert operator | author= Ivanov, A.B.}}

{{物理学の演算子}}

{{DEFAULTSORT:たらんへるえんさんし}}
[[Category:双曲型偏微分方程式]]
[[Category:微分作用素]]
[[Category:数学に関する記事]]
[[Category:エポニム]]