アトラス (多様体)のソースを表示

{{出典の明記|date=2017年9月}}
[[数学]]の特に[[微分位相幾何学]]における'''アトラス''' ({{lang-en-short|''atlas''}}; '''地図帳''') あるいは'''座標近傍系'''{{sfn|松島|1965|p=25}}（ざひょうきんぼうけい、{{lang-en-short|''co&shy;ordinate neighbourhood system''}}）は[[多様体]]を記述するために必要である。アトラスは'''チャート''' ({{lang-en-short|''chart''}}; 地図) あるいは'''座標近傍'''{{sfn|松島1965|p=24}} (''co&shy;ordinate neighbourhood'') と呼ばれる元の族であり、各チャートは簡単に言えば多様体の各点の周りの適当な領域に座標を入れて考えられるようにするものである。例えば地表を多様体と見なせば、アトラスとその各チャートは日常的な意味で言う地図帳と各地図と考えられる。一般には、アトラスは多様体の厳密な定義の一部として含まれ、あるいは多様体と関連深い[[ベクトル束]]などの[[ファイバー束]]においても同様である。

== 定義 ==
アトラスの定義にはチャートの概念が必要である
; 定義 (chart)
: [[位相空間]] {{mvar|M}} の'''チャート'''は {{mvar|M}} の[[開集合]] {{mvar|U}} と {{mvar|U}} 上で定義された[[ユークリッド空間]]の開集合への[[同相写像]] {{mvar|φ}} の組 {{math|(''U'', ''φ'')}} を言う。このとき、{{mvar|φ}} を {{mvar|U}} 上の'''座標系'''{{sfn|野水|1981|p=2}}（座標函数系、座標標構、座標写像などとも）{{efn|あるいは {{mvar|U}} を特に固定あるいは指定せずに、局所座標系、局所座標函数系、局所座標標構、局所座標写像など}}と呼び、{{mvar|φ}} の像空間における各成分{{efn|任意の点 {{math|''p'' ∈ ''M''}} における値が {{math|1=''φ''(''p'') {{coloneqq}} (''φ''{{sub|1}}(''p''), …, ''φ{{sub|n}}''(''p'')) ∈ '''R'''{{sup|''n''}}}} と書けるときの各 {{mvar|φ{{sub|i}}}}, これをしばしば {{math|''φ'' {{coloneqq}} (''x''{{sup|1}}, …, ''x{{sup|n}}'')}} のようにも書く{{sfn|野水|1981|p=2}}}}を'''局所座標函数'''あるいは {{mvar|U}} 上の座標函数と呼ぶ。また、{{mvar|M}} の各点 {{mvar|p}} に対し、{{math|''p'' ∈ ''U''}} となるようなチャート {{math|(''U'', ''φ'')}} を考えるとき、{{mvar|U}} を {{mvar|p}} の座標近傍、{{math|''φ''(''p'')}} を {{mvar|x}} の座標と呼ぶ。
; 定義
: [[位相空間]] {{mvar|M}} の'''アトラス'''とは、{{mvar|A}} で添字付けられた {{mvar|M}} のチャートの族 {{math|(''U{{sub|α}}'', ''φ{{sub|α}}''){{sub|''α''∈''A''}}}} で <math display="inline">\bigcup_{\alpha\in A} U_{\alpha} = M</math> となるものを言う。

{{mvar|M}} のアトラスに属する任意のチャートが {{mvar|n}}-次元[[ユークリッド空間]] {{math|'''R'''{{sup|''n''}}}} となっているとき、{{mvar|M}} は {{mvar|n}}-次元[[位相多様体|（位相）多様体]]と呼ばれる。

== 座標の取り換え ==
{{ Annotated image | caption=Two charts on a manifold, and their respective '''transition map'''
| image=Two coordinate charts on a manifold.svg
| image-width = 250
| annotations =
{{Annotation|45|70|<math>M</math>}}
{{Annotation|67|54|<math>U_\alpha</math>}}
{{Annotation|187|66|<math>U_\beta</math>}}
{{Annotation|42|100|<math>\varphi_\alpha</math>}}
{{Annotation|183|117|<math>\varphi_\beta</math>}}
{{Annotation|87|109|<math>\tau_{\alpha,\beta}</math>}}
{{Annotation|90|145|<math>\tau_{\beta,\alpha}</math>}}
{{Annotation|55|183|<math>\mathbf R^n</math>}}
{{Annotation|145|183|<math>\mathbf R^n</math>}}
}}
アトラスにおける二つのチャートを比べる方法として、それらの間の座標変換を与える遷移写像 (transition map; 推移写像) を考えることができる。この遷移を記述するには、一方の座標写像の逆写像に他方の座標写像を合成することを考えればよい。ただし、この合成を[[well-defined|きちんと定義する]]には、両座標写像の定義域をそれぞれの写像の定義域の交わりに制限しなければならない。

より精確に述べれば、
; 定義 (transition map)
: 多様体 {{mvar|M}} の一つのアトラスに属する二つのチャート {{math|(''U{{sub|α}}'', ''φ{{sub|α}}''), (''U{{sub|β}}'', ''φ{{sub|β}}'')}} が {{math|''U{{sub|α}}'' ∩ ''U{{sub|β}}'' ≠ &empty;}} となるとき、'''座標変換'''あるいはチャート間の'''遷移'''とは {{math|''τ{{sub|α,β}}'': ''φ{{sub|α}}''(''U{{sub|α}}'' ∩ ''U{{sub|β}}'') → ''φ{{sub|β}}''(''U{{sub|α}}'' ∩ ''U{{sub|β}}'')}} は <math display="block">\tau_{\alpha,\beta} := \varphi_{\beta} \circ \varphi_{\alpha}^{-1}</math> と定義される写像（ベクトル値函数）{{math|'''R'''{{sup|''n''}} → '''R'''{{sup|''n''}}}} を言う。

{{mvar|φ{{sub|α}}, φ{{sub|β}}}} がともに同相写像であるから、変換函数 {{mvar|τ{{sub|α,β}}}} もまた同相となることに注意。

== 更なる構造 ==
多様体には単なる位相構造以外にも構造が入っていたほうがよいのが普通である。例えば、多様体上の[[写像の微分]]の概念が紛れ無く定義されるようにするならば、そのアトラスは任意の座標変換が[[可微分函数]]となるように構成されなければならない。そのような多様体は[[可微分多様体]]という。可微分多様体が与えられれば、その[[接ベクトル]]そして[[方向微分]]の概念が紛れ無く定まる。

任意の座標変換が{{ill2|滑らかな写像|en|smooth map}}となるとき、アトラスは{{ill2|滑らかな構造|en|smooth structure|label=滑らかなアトラス}}、多様体は[[可微分多様体|滑らかな多様体]]と呼ぶ。あるいは、座標変換が {{mvar|k}}-回連続的微分可能とだけ仮定して {{mvar|C{{sup|k}}}}-級アトラス、{{mvar|C{{sup|k}}}}-級（可微分）多様体が定められる。

非常に一般に、任意の座標変換函数が[[ユークリッド空間]]の[[同相写像]]からなる{{ill2|擬群 (位相幾何学)|en|pseudo-group|label=擬群}} {{mathcal|{{unicode|𝒢}}}} に属するならば、そのアトラスは {{unicode|{{mathcal|𝒢}}}}-アトラスであるという。また、チャート間の遷移写像が[[局所自明化]]を保つならば、そのアトラスは[[ファイバー束]]の構造を定める。

== 関連項目 ==
* {{ill2|滑らかなアトラス|en|smooth atlas}}
* {{ill2|滑らかな標構|en|smooth frame}}

== 注 ==
=== 注釈 ===
{{notelist}}
=== 出典 ===
{{reflist}}

== 参考文献 ==
{{refbegin}}
* {{citation|和書|last=松島|first=与三|title=多様体入門|series=数学選書 5|publisher=裳華房|year=1965}}
* {{citation|和書|url= {{google books|id=gAb6DAAAQBAJ|plainurl=1}}|title=現代微分幾何入門|series=基礎数学選書 25|last=野水|first=克己|publisher=裳華房|year=1981|isbn=9784785311278}}
*{{cite book | first = John M. | last = Lee | year = 2006 | title = Introduction to Smooth Manifolds | publisher = Springer-Verlag | isbn = 978-0-387-95448-6}}
*{{cite book | first = Mark R. | last = Sepanski | year = 2007 | title = Compact Lie Groups | publisher = Springer-Verlag | isbn = 978-0-387-30263-8}}
*{{citation| last=Husemoller | first=D|title=Fibre bundles|publisher=Springer|year=1994}}, Chapter 5 "Local coordinate description of fibre bundles".
{{refend}}

== 外部リンク ==
* {{MathWorld|urlname=Atlas|title=Atlas|author=Rowland, Todd}}
* {{nlab|urlname=atlas|title=atlas}}
* {{PlanetMath|urlname=mathcalcrtopologies|title=''{{mathcal|C}}{{exp|r}}'' topologies}}
* {{ProofWiki|urlname=Definition:Atlas|title=Definition:Atlas}}

{{DEFAULTSORT:あとらす}}
[[Category:多様体論]]
[[Category:数学に関する記事]]